
創立138年目を迎える三菱倉庫が、ゼネラリストだけでなく、変革を起こすリーダー、新しい挑戦(M&A、DXなど)や成長戦略の実行を担う専門人材の社内育成を強化中だ。
今年で創立138年目を迎える三菱倉庫は、創立記念日の昨年4月15日から全社員を対象とした企業内大学「MLCアカデミー」を開校。現在までに社員の約7割が参加し、活況を呈している。同社のアカデミー開校の狙いはどこにあるのか。MLCアカデミー学長の木村 伸児氏は次のように説明する。
「デジタル化、グローバル化など外部環境が激しく変化するなか、MLC2030ビジョン/経営計画の達成には、従来のゼネラリストに加え、変革を起こすリーダーやM&A、デジタル化や成長戦略の実行を担う専門人材が不可欠です。これらの人材を中長期的・計画的に育成するために、従来の人材教育システムを発展させるかたちで『会社の事業成長と個人のキャリア形成を支援する』をコンセプトとして、全社員を対象に継続的、自律的に学習できる教育環境を整備しました」
もっと具体的に言えば、新技術の活用体制の構築や、ベンチャーキャピタルへの投資を通じたスタートアップ企業との連携、業務でのAI推進など、新たな施策に対応できる人材を社内で育成することで、物流と不動産を主軸とする企業として新たなイノベーションを起こしたいという狙いがある。
「ある意味、物流や不動産はオールドエコノミーのようなもの。新たな切り口がなかなか出てきません。その壁を打破するためにも、社内で新たな挑戦のできる人材を育成していきたいと考えているのです」
社内の暗黙知を共有する講座や異業種との交流講座も

MLCアカデミーの教育方針
では、アカデミーの内容はどうなっているのか。そこには3つの教育方針がある。まず1つ目が「自律的学習・キャリア形成の推進」だ。社員の新しい知識やスキルを学び続ける意欲を育み、自己成長につなげることで変化への対応力を養っていく。2つ目は「実践に即したカリキュラムの提供」。各業務に必要な専門性や社内経験知の蓄積・共有を促進するカリキュラムを提供することで、事業戦略の実現に必要な知識やスキルの習得を支援していく。そして3つ目が「次世代リーダー等の育成」だ。自ら変化をつくり出し、新たな挑戦やイノベーションを主導し、将来のビジネスを担える人材を育てることを主眼としている。
全社員を対象としているだけあって、カリキュラムは豊富。1人で複数の講座を受講することもできる。木村氏が続ける。

MLCアカデミーの教育体系
「カリキュラムでは、従来の階層別研修、語学、資格取得講座に加え、専門性を獲得する講座、ベテラン社員による社内経験知共有講座、社員の声から生まれた「失敗事例の共有」講座、異業種との交流講座、外部教育機関への派遣など、多彩なコンテンツを提供しています」
従来からの階層別研修は指名制だが、その他の講座は応募制で自由に受講することができる。オンライン、リアル、ハイブリッドなどさまざまな受講形態があり、基本的に就業時間内で行うことを前提としている。
「あくまで最近見られるようなリスキリングを主目的とした教育ではなく、社内でのキャリアアップを目指して学べるようになっています。講座を受けることによって、社内の希望の部署に手を挙げることも可能です。定年に近い人を対象に、定年後のキャリアについて学ぶ講座も用意されています。」
将来的に会社を支える
4類型の人材を育成
アカデミーの講座は、新機軸である「事業成長力強化スキル」と全社ベーススキルの「事業基盤力強化スキル」と大きく2つの柱で構成されている。
「事業成長力強化スキル」では、事業成長に求められる知識やスキルのしぼり込みを行い、MLC2030ビジョン達成のための人材ポートフォリオの4類型(マネジメント、ソリューション、オペレーション、イノベーション)や、各階層別に体系化したもので、おもに社外講師・外部教育機関などによってカリキュラムが実施される。

人材ポートフォリオの4類型
「事業基盤力強化スキル(全社ベーススキル)」では、各階層別の重要スキルや知識の確実な習得と、社内ネットワーク構築などの観点から、既存カリキュラムを一部見直したうえで実施する管理職・階層別の講座。また、多様性・公平性の尊重(DE&I)、キャリアデザインやDX関連など、時代に合わせた社会的に注目度の高いテーマについて、資格・役割を問わず幅広い年代向けにカリキュラムを実施するヒューマンスキル・DXの講座。さらに、事業運営の基盤となる専門性や社内経験知を体系化し、各事業部から選任した社内人材を中心とした講師が実施する業務遂行スキルの講座などがある。
このほか、通信教育・eラーニング・若年職員海外派遣プログラムおよび三菱マーケティング研究会などの外部機関のカリキュラムに加え、他社との合同プログラムも適宜実施している。
昨年の開校以来、社内での評判も上々で、アカデミー事務局の奥田 奨氏もこう言う。
「開校以来、講座数は増えており、好きな講座を選びやすくなっています。やはり不足感のあるイノベーション専門人材の育成も重要な課題ですが、会社を支える存在として4類型はすべて強化する必要があり、若いうちから多くの講座を受けてもらうことは全社的な人材のレベルアップにつながっていくと考えています」
今後は受講者を社内だけでなく、グループ会社にも広げる方針だ。木村氏も言う。
「これからも講座を通じて、社員の自己分析を促し、キャリアアップに生かしていただきたい。そして、異業種との交流なども取り入れながら講座の幅をもっと広げていきたいと考えています。そのうえで、将来、我が社を支えてくれるようなリーダー、イノベーション人材を育成していきたいと思っています」。
INTERVIEWEES

木村 伸児 SHINJI KIMURA
MLCアカデミー学長

奥田 奨 SUSUMU OKUDA
MLCアカデミー事務局
三菱倉庫株式会社
東京都中央区日本橋1-19-1
1887年設立。産業・社会の変革に合わせ事業をグローバルに拡大し、物流事業と不動産事業を通じて社会や人々の生活を支えている。パーパス「いつもを支える。いつかに挑む。」は、三菱倉庫がこれまでの歴史のなかで果たしてきた社会価値の創造をこれからも将来にわたって継続するために、挑戦し続ける会社の意思と決意を表現している。