
SANTA EMBLEY
三菱鉱石輸送が2024年3月から海外資源メジャー向けに新造ばら積み船を導入。海運業界における環境対策の現状とは?
三菱鉱石輸送は2024年3月から新造ばら積み船「SANTA EMBLEY」(サンタ・エンブレイ)の展開をスタートさせた。同船は長期契約に基づく海外資源メジャー向けのもので、バルク(梱包せず輸送する)状態で資源を運ぶ、ばら積み船となる。長さは229m、積載量を示すデッドウェイト(荷物を積載した全重量から船舶自体の重量を差し引いた重量)は8万7000トン。大型船ならば18万~30万トンだが、同船は中型船となり、合わせて同社が保有または管理する船舶は14隻となる。同社経営企画室長の三浦 洋氏は次のように語る。
「最新の環境性能を備え、当社が長年培ってきた船舶の長期保有・船内作業の効率化・安全性に関するさまざまなノウハウを織り込んでいます。船員の安全確保や人権保護、顧客である荷主・船舶使用者の満足度を向上させ、SDGsに係わる安全・環境・品質保証に関する取り組みを強化する狙いがあります」
同船はおもにアルミの原料となるボーキサイトを供給地であるオーストラリアから需要地の中国へ運ぶ役割を果たす。中国でボーキサイトはEV向けを始め、環境系の素材として需要が高まっている。
同社は今後、業界および日本郵船グループが目標とする2050年GHGネットゼロを目指し、同船を皮切りに既存技術の活用と代替燃料などの新技術の導入を両輪で進めていく方針だ。
海運業界は2030年までに重油に代わる新たな燃料に模索へ
国際海運業界では現在、2050年にGHGネットゼロの目標を掲げている。これまで船は基本的に重油を燃料としてきたが、2050年に向けて移行期の現状ではLNG(液化天然ガス)、メタノール、将来のゼロエミ燃料に向けては、水素、アンモニアなど重油に代わり得る新たな燃料を模索する時期を迎えている。
「船の寿命は15~20年ほど。少なくとも2030年頃までに新たな燃料を定めなければ、2050年までに目標を達成することはできません。ただ、今はどの燃料を主軸とするのか業界全体でも決め切れていない微妙な状況にあるのです」(三浦氏)
こうしたなか、同社の新造ばら積み船「SANTA EMBLEY」は、新燃料路線を突き進むのではなく、従来からの重油を使いながらも、燃費をできるだけ抑え、2025年以降の契約船に適用される燃費規制(EEDI)3次規制に先行対応するかたちを採っている。実際、燃費は基準値よりも3割ほどよく、ここ数年、業界全体で先行対応する船が増えつつあるという。環境性能では日本建造船が世界をリードしており、本船は現状最も燃費のよい最新船となる。
「私達としても将来的にはゼロエミッションの船を導入していきたいと考えています。
しかし、燃料サプライチェーン構築や技術確立にはまだ時間が掛かることから、今確実に効果を出すことができるGHG削減策として、最新鋭の重油燃料船の導入を決めたのです」(三浦氏)
自社船舶の管理からメンテナンスまでの一貫運用が強み
ここで船の世界について簡単に説明しよう。日本の建造技術は現在世界トップレベルにあり、環境対策の気運も高まっている。船は1隻新造するのに約1年を要するが、造船所も先々までの建造工程を埋めていくので、発注から竣工までは最低でも2~3年程かかる。そのため、環境対応には直近の対策とタイムラグが生じる。
世界の物流の9割以上は海運が担う。大量に物資を運べるため、物資当たりの環境負荷は低くなる。おもにばら積み船では大型船は鉄鉱石や石炭、中型船ではそれらに加え、小麦やとうもろこしなど穀物を運ぶ。この鉄鉱石、石炭、穀物が3大メジャー貨物と言われる。一方、6万トン以下の小型船は、港に入港しやすく小回りが利くため、マイナーな鉱物資源や鉄くずなどありとあらゆる貨物を運ぶ。
そんな海運業界は、船の貸し借りや分業が当たり前となっている。そうしたなかで、同社の強みは世界有数の資源・穀物商社と直接取引し、自分達の船は自分たちで管理し、船員配乗からメンテナンスまでを一貫して自社で担うことにある。安全・環境・品質保証を突き詰めていくためには、自社でダイレクトにコントロールする方が、効果も大きい。同社船舶管理グループ長の安田 文之氏はこう語る。
「さらにいえば、私たちは新造する前の設計図面の段階から細部まで確認するほか、建造中にも現場にスタッフを派遣し細かい確認を行っています。見た目は同じ船かもしれませんが、私達の船は細部まで瑕疵がないように目を行き届かせているため、竣工後のトラブルも少なくなるのです」
どんな技術革新が現れても、いつでも対応できる体制をつくる
海運業界は景気の影響を受けやすい。多くの海運会社は輸送需要が高く景気がいいときに船を発注する。そのため、数年後に竣工したときには業界で船が余り気味となり、不況となるパターンが少なくない。しかも、好景気のときにサービス品質の高い船をスポット市場から調達するのは難しく、新造すれば2~3年かかるため、常に長期的な需要予測をしてビジネスを行っていくことが必須となる。
直近では2008年のリーマンショック前に中国の爆発的な需要増を受け、大量に発注された船が実際に竣工のピークとなったのが2010~2012年頃。その後2014~2016年にかけて海運市況は大きく落ち込んだ。しばらく建造量も減少したため、現在は船と輸送需要の需給バランスは安定している。今後はインドの経済成長に注目しているという。
常に安全・環境・品質保証をもとにした持続的なサービス提供を目指す三菱鉱石輸送。三浦氏は今後の環境対策への取り組みをこう語る。
「現在はゼロエミ燃料が確立されるまでの移行期。様々な代替燃料が考案されていますが、アンモニアや水素はまだ技術が確立されていません。そのため、当社は現状、LNG燃料などに対応した技術的調査、船員教育に先行して投資を行っています。業界では技術開発も進めており、風力を使った船にもチャレンジできればと考えています。どんな技術革新が現れても、いつでも対応できるような体制づくりを引き続き進めていきたいと考えています」。
INTERVIEWEE

三浦 洋 HIROSHI MIURA
経営企画室長

安田 文之 FUMIYUKI YASUDA
船舶管理グループ長
三菱鉱石輸送株式会社
東京都千代田区丸の内3-4-1
チリ国アタカマ鉄鉱石を八幡製鉄(現日本製鉄)向けに輸送するため、三菱商事、三菱鉱業(現三菱マテリアル)などの共同出資により、1959年に設立された。1964年より現社名に変更。船主業、船舶管理業を軸に、ばら積み船ほか、自動車専用船など計14隻を展開する。資本金15億円、従業員数43名(日本人海技者を含む、2024年4月1日現在)。2023年4月に日本郵船の完全子会社となる。