
キリングループが展開する「スプリングバレーブルワリー東京」が開業10年目のタイミングでリニューアルオープン。2015年の開業以来、クラフトビールを起点にビール文化の活性化を図ってきた同社のリニューアルの狙いとは?

キリンホールディングスのグループ会社であるスプリングバレーブルワリー(SVB)は、クラフトビールブランド「SPRING
VALLEY」を展開する、直営の体験型ブルワリー併設店舗「スプリングバレーブルワリー東京」(SVB東京)を今春リニューアルした。直営店の大幅なリニューアルは2015年の直営店オープン以来初となる。
SVBは、クラフトビールブランド「SPRING
VALLEY」直営の体験型ブルワリー併設のビアレストランとして2015年にオープン。店舗限定醸造ビールを含む常時7~12種の多様なクラフトビールのラインアップを揃え、各クラフトビールに応じたこだわりのペアリング提案や他ブルワリーとの共同イベントの開催など、“驚きのあるビール体験”を提供してきた。
現在展開する東京店と京都店(2017年開業)を中心とした
SVB店舗への来場者数は、2024年6月時点で延べ200万人を突破しており、来店した客からも「いろいろな味わいが楽しめる」「店舗しか飲めない限定品にこだわりを感じる」「食事とのペアリングが面白い」など、好評を得ている。今回のSVB東京店リニューアルのポイントはどこにあるのか。同社社長の井本 亜香氏は次にように語る。
「今回のリニューアルは『ENJOY!
CRAFT』をコンセプトに、1階と2階で業態を分けているところがポイントになります。1階はまだクラフトビールの体験がない方々を対象に、気軽に入って気軽にクラフトビールを体験できる空間を演出し、2階はクラフトビールのペアリングをしっかり体験していただく空間づくりとなっています。」

コロナ禍で変化した
消費者の飲食スタイル
2015年のオープンから今年で10年目。なぜこのタイミングでリニューアルとなったのだろうか。
「私は2023年春に着任しましたが、当時外食はまだコロナ禍の影響から抜け出していませんでした。そのときお店を改めて見たとき、お客様のライフスタイルが変化し、飲食の使い方が大きく変わっていることに気づきました。これまではたくさんの人数で店にやってきて、皆でわいわい楽しみながら飲むスタイルでしたが、最近では2~3人という小さなグループで飲みに来られるお客様が増えています。それも会社関連の方というよりも、友人・知人といったプライベートで仲の良い仲間同士でやってくるケースが増えています。そこで私たちもお店として変化しなければならないとリニューアルを決断しました。リニューアル後は新たな客層も開拓できたと考えています」
現在、日本のクラフトブルワリーの数は増加傾向にある。とくにコロナ禍で地域の助成金などを活用し、地域に根差したブルワリーが増加。そこには消費者が流行しているビールを当たり前のように買うという時代が終わり、自分が良いと選んだビールを納得して買う時代になったという背景もある。いわば、消費者の嗜好の変化と個性的で多様なクラフトビールがマッチしたと言える。井本氏が続ける。
「クラフトビールは大きく拡大していくというよりも、そこでしか飲めないという希少性が特徴であり、地域性や造り手のこだわりをローカルに楽しむものです。実際、そんなユニークで多様なクラフトブルワリーが増えています」
SVB東京は、クラフトビールの楽しさを発信し続ける「SPRING VALLEY」ブランドのフラッグシップ店舗であり、キリンのクラフトビール事業の前線基地となる。
「やはり当たり前のビールではなく、ビールの面白さや概念、見方が変わるようなビールを提供していきたい。新たなビールの魅力とは何か。それを発見する役割をクラフトビールが担っていると考えています」
“驚きのあるビール体験”を通じて
クラフトビール市場を活性化
ただ、クラフトビールに興味はあるが、まだ飲んだことがないという消費者も少なくない。その多くは「どんな味かわからない」「選び方がわからない」という理由に集約される。そこでSVB東京ではブルワリー併設という専門業態を活かし、まだクラフトビールの飲用体験のない客が敷居の高さを感じることなく、気軽に楽しめる“体験の場”を提供することにリニューアルの力点を置いた。今後は現代的に進化した空間やイベント、音楽やアートとのコラボやスタッフとの会話など、多方面からクラフトビールの楽しさを提供していきたいという。
「一方で、店にはクラフトビール好きのリピーターの皆様もいらっしゃるので、そうした方々と仲良くなっていただく交流の場所にもなってほしいと思っています」

1階ウォールタップ

1階の全体

2階のペアリングカウンター

2階のパーティ席
2階は、非日常を感じる落ち着いた空間でコースを楽しみながら様々なクラフトビール体験をしていただけます。特に、日本ではまだ珍しい各ビールに合わせた食とのペアリングコース専用のカウンター新設し、ビアコーディネイターの資格を持つスタッフが約2時間かけてサービングします。
SVBの強みは、醸造所が併設されていることを生かし、クラフトビールならではのチャレンジングなビール造りに取り組むこと。そして、クラフトビールがおいしく楽しいと思える“驚きのあるビール体験”を通じて、自宅などで日常的にクラフトビールを楽しみたくなる“環流”のきっかけを提供する狙いがある。実際、キリンが全国展開している「SPRING
VALLEY」ブランドには、SVB店舗で培ったビール造りの知見、店舗での販売動向、客の声が生かされている。店舗開発を担当する同社の清水 大樹氏もこう言う。
「私たちは日本一のクラフトビールのブルワリー併設レストランを目指す中、店舗に来ていただいた方が、接客やサービスによって、クラフトビールの楽しさを知って帰っていただきたい。外食からも新たなビール文化をつくるべく今後も努力していきたいと思っています」
井本氏も少子化が進む中、若年層にビール文化をもっと浸透させていきたいと語る。
「これからもクラフトビールをきっかけにお客様にもっとビールを楽しんでほしい。最近は若者があまりお酒を飲まないと言われていますが、音楽やアートとコラボするなど多くの”入口”を通して、クラフトビールの魅力を発信していきたいと考えています。まさに“驚きのあるビール体験”を進化させていくことで、日本のクラフトビール市場自体の活性化にもつながるよう、SVB店舗、「SPRING
VALLEY」ブランドの両輪で一体となった取り組みを継続していきたいと考えています。東京店、京都店ともにぜひ皆様にご利用していただきたいと思っています」。
INTERVIEWEE

井本 亜香 AKA IMOTO
社長

清水 大樹 HIROKI SHIMIZU
スプリングバレーブルワリー東京
東京都渋谷区代官山町13-1 LOG ROAD DAIKANYAMA(ログロード代官山)内
2015年4月開店。営業時間は月~土 11時~23時(フードラストオーダー22時、ドリンクラストオーダー22時30分)日・祝
11時~22時(フードラストオーダー21時、ドリンクラストオーダー21時30分)いずれもテラス席の営業は21時まで。定休日は不定休。最寄駅は東急東横線「代官山」駅北口より徒歩4分、JR山手線・東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅より徒歩9分。