ライフスタイル企画

2025.04.17

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.19

時間を制するものは人生を制する!? 「時間」について考える3冊

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いよいよ新年度がスタート。これまでとはひと味違う、ヴァージョンアップした自分を目指したいなら、時間との向き合い方が鍵になるだろう。加速する現代社会をスピーディに駆け抜ける技を磨くか、人生100年時代に時間を「味わう」生き方を手に入れるか。時間との向き合い方を見つめ直すことは、自分らしい生き方を手に入れることそのものかもしれない。そんなヒントになる3冊をセレクト。

時間のデザイン

時間のデザイン
井上新八著 サンクチュアリ出版
(1,760円)

最初に紹介するのは、ある種の「時間術」を提案する本書。ブックデザイナーの著者は、アシスタントもつけずたった一人で、多い年には年間200冊ものブックデザインを手掛け、その仕事と並行させて毎日1冊の読書にランニングや筋トレ、ドラクエ、ダンス習得など多彩な趣味をもつ。それらをどうやってこなしているのか? そこに著者の「時間のデザイン」術がある。とはいえ著者自身も冒頭で述べているとおり決して一般的なスタイルでも正解というわけでもない。超朝型の著者は、4時に起き、4時半までの間に11個以上の私的なルーティンをこなし、続いて9時までが仕事のゴールデンタイム。再び12時半まで20ほどの私的なルーティーンをこなす。こうして重要なことを午前中に終えたうえで午後は打ち合わせや急がない仕事など、フレキシブルに過ごすというのだ。ほかにもさまざまなテクニックがあり、「習慣化する」「早くやる」「たくさんやる」「なんでもやる」という4つの章でこと細かに説明されている。著者の手法のなかからできそうなものを取り入れてもいいし、自分独自の時間術を考えてもいいだろう。いずれにしても「時間がないから物理的にムリ」という言い訳は著者のライフスタイルを前に無力となる。楽しみながら時間を生み出し、仕事も趣味も贅沢に満喫する方法をデザインしてみよう。

時間の図鑑 時計の時間・心の時間

時間の図鑑 時計の時間・心の時間 一川誠著 金の星社
(4,620円)

毎日私達がこんなにも縛られ、正確性を求められ、ビジネスの尺度としても重要視されている「時間」。しかし本当に私達はこの時間というものを正しく理解しているのだろうか? 目に見えず、触れることもできず、しかし誰もが向き合い続けているこの不思議な存在について、さまざまな観点から解析する本書。大きい字にふりがなも振られ、児童でも読める本でありながら、どの項目も大人にも新たな深い気づきを与えてくれるものばかり。第1章では時間という概念について解説し、古代の哲学者や神話、宗教の中でそれがどのように捉えられてきたかを紹介。第2章では太陽の動きと暦、時計について、第3章ではニュートンやアインシュタインの発見に基づき、物理学的視点から時間について考え、第4章では生物にとっての時間を検証、最終章では心や脳の状態が時間の感覚にどのような影響を及ぼしているかを考える。生きることは時間を過ごすことそのものともいえるから、時間をどう捉えるかは、自分は何のために生きているか、どこに向かって生きているかを考える大きなきっかけになるだろう。自分なりの「時間軸」を作り出すきっかけに、手にとってほしい一冊だ。

時の辞典 365日の短歌

時の辞典 365日の短歌
岡野大嗣著 ライツ社(2,145円)

3冊目は「時間から開放してくれる」一冊。365日に散りばめた短歌集だ。短歌なんて興味がない、という人もぜひこの短い一言に、「ほんのひととき」足を止めてみてほしい。Eテレ「NHK短歌」の選者も務めた著者のこれまでの作品を季節や節目に合わせて並べた作品集だ。忙しい毎日を送っている人も、あるいは物事が前に進まず、時間が止まったように感じている人も、たとえば今日の日付の歌を読んでみると、眼の前に確かにある幸せな瞬間や、生命の豊かさを感じるワンシーンに改めて気付かされるだろう。うまくいっているときもいかないときも、時間は変わらず流れている、そのことはきっと励みになるはずだ。あとがきで著者はこう語る。「短歌とたわむれるとき、わたしたちは時の流れから自由になれる。前後に予感が満ちていて、過去にも未来にも羽を伸ばせる」。実は短歌でなくても心がけひとつでもっと時間から自由になれるはず。その訓練として本書を使うのもいいし、さらに本書をお手本に自分で短歌を詠んでみると、いっそう時間から自由になれるかもしれない! ちなみに本書の4月のある日の一句はこんなふう。
「おとしもののスヌーピーを葉桜につるすここで終わったっていいように」

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティングも行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。

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