
三菱化工機の新本社・川崎製作所の外観図(イメージ)
三菱化工機は、本社・川崎製作所の再編計画について発表、2027年までの完成を目指す。従業員がワクワク働け、オープンイノベーションを促進する職場づくりを狙う。
三菱化工機は2024年8月、本社・川崎製作所の再編計画について発表した。同社では4つの戦略的事業領域の確立に向けた事業ポートフォリオ改革と、新たなモノづくり戦略を推進するための戦略的な事業投資と位置付けており、新施設を2027年までに完成させる予定だ。同社企画管理統括本部執行役員本部長の宮本 智成氏は次のように語る。
「私達は川崎臨海部に敷地面積約5万㎡の本社・川崎製作所を有しています。新しい工場設備については、少量多品種の製品づくりに対応していくために、比較的自由度の高いレイアウトにしていく予定です。また、新しい事務所研究棟については、産官学の共創を推進していくためにも、外部の方々とオープンイノベーションを実現できるようなフィールドを設けるさまざまな仕掛けをつくっていきたいと考えています」
同社は2035年に創立100周年を迎える。1935年の創立以来、現在の本社・川崎製作所をモノづくりの主力拠点としてきた。とりわけセルフジェクター(SJ)は、客船、貨物船、タンカーをはじめ、あらゆる船舶分野のディーゼルエンジンの燃料油や潤滑油の清浄機として不可欠な製品であり、そのほかに食品用、化学用、医薬用など幅広い産業分野でも採用されてきた。創立直後の1940年に初受注以来、船舶用については世界トップのシェアを占めてきている。
2012年には、当時3つあった工場の1つを油清浄機「三菱セルフジェクター」専用工場として建て替えを実施。しかし、残る工場、事務所棟、研究棟などは老朽化が進んでおり、建築物の根本的な見直しが必要となっていた。同社グループが目指す「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」の実現のためにも、カーボンニュートラル社会に寄与する新しい技術や製品の開発が不可欠であり、そのための開発・製造拠点が必要になることから、今回の再編計画を決定した。
環境に配慮した最先端工場をコンセプトに
省エネや脱炭素化をリードする中心拠点にしていく

事務所研究棟(イメージ)
今回の再編計画では本社・川崎製作所内の各棟(SJ工場・水素ステーション一帯を除く)を解体し、工場・事務所・研究施設の建て替え配置を行う。
事務所研究棟は、事務所と研究施設の機能を集約することで、それら機能に要するスペースや食堂、会議室など付帯設備の最適化を図っていく。また、従業員の多様な働き方や自主・自律・自発的な活動に応える空間デザインを採用し、従業員エンゲージメントおよび労働生産性の向上につなげていく。

工場実験棟(イメージ)
工場実験棟は、環境に配慮した最先端工場をコンセプトに、省エネや脱炭素化、DX化をリードするモノづくりの中心拠点としていく。次世代製品の生産を担うほか、既存の遠心分離機やろ過機、フィルターなどの産業機械、船舶環境規制対応機器の組み立て機能を担う。また、既存・新規技術と経営ビジョンに掲げる戦略的事業領域を軸に、外部機関との共創・相乗効果を図る多目的な実験・研究フィールドを併設していく。新規事業の探索と次世代製品の開発を一層加速させ、戦略的事業領域の確立と新たな成長事業を生み出す拠点づくりを進めていく。同社技術開発・生産統括本部執行役員本部長の山崎 明良氏もこう説明する。
「もともとサステナビリティに関する技術は私達の強みとなっており、今後さらに伸ばしていきたいと思っています。そのために資源循環、CO2・気候変動、DX、水・食・自然災害の4つの戦略的事業領域の確立に向けた事業ポートフォリオ改革を進めるため設備の最適化を図るとともに、スタートアップ企業や大学なども参加できる共同ラボのような研究施設にしていきたいと考えています」
働く環境を新しくすることで
従業員達にもっとワクワクしながら働いてほしい
また、従業員エンゲージメントの向上と自然との共生を目指し、既存のSJ工場と新設する2つの建物が囲う形で緑地を整備していく。事務所研究棟前には交流テラスを設置するほか、ルーフバルコニーの設置も計画している。外部の景観を楽しめるつくりにすることで、従業員の創造性やモチベーションを最大限に引き出し、リラックスした空間で良好なコミュニケーションを図ることができる職場環境の整備を行う。
「現在の敷地内は60年以上の老朽化した建物がほとんど。働く環境が新しくなれば、従業員の顔つきや意識も明るく活発になっていくでしょう。外部の方々との交流が生まれるなかで、従業員達にもっとワクワクしながら働いてほしいのです」(山崎氏)

緑地を整備し、外部の景観を楽しめる環境づくりを目指す
また、工場実験棟では、製造部門と研究開発部門の各機能が連携を行いやすい構造、配置を計画している。産学官の連携を実践する実験設備をはじめ、オープンイノベーションの中核となる施設として、コミュニケーションやディスカッションが活性化されやすい環境を構築していく。
「川崎市でもスタートアップ支援が進められていますが、川崎臨海部エリアに属する企業にも研究施設の提供などの協力が呼びかけられています。私達も市の意向を汲んで技術的に近いスタートアップと連携・協働していくことができればと考えています」(宮本氏)
なお再編計画では、稼働している事務所・工場の機能を停止させることなく、各棟を建設し機能を移行させていく必要がある。そのため、各工程の検討を十分に行い、工程遅延による事業活動への影響が起きないよう計画している。また、周辺環境に配慮し、安全対策や騒音・振動対策を十分に実施して再編を進めていく。最新の省エネ、創エネ技術の導入を検討し、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにするZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)のうち、ZEB Ready(4段階のうちの2段階目)の取得を目指す。将来的にはNearly ZEB(同3段階目)の取得も視野に入れており、環境に配慮した計画を促進していく方針だ。
INTERVIEWEE

山崎 明良 AKIYOSHI YAMAZAKI
技術開発・生産統括本部 執行役員本部長

宮本 智成 TOMONARI MIYAMOTO
企画管理統括本部 執行役員本部長
三菱化工機株式会社
神奈川県川崎市川崎区大川町2-1
1935年三菱各社の出資により化学工業用機械国産化のために化工機製作株式会社として創立。製品第1号はオートクレーブ(反応釜)。現在は、プラント・環境設備の建設・エンジニアリングと各種単体機械の製作、納入後のアフターサービスを軸に事業を展開。都市ガス・水素・石油化学・半導体・電子材料・船舶・医薬・各種水処理などさまざまな分野で求められる機械・設備を手掛ける。従業員数は957名(連結)(2024年3月末日)。