
イノシシ、ニホンジカ、二ホンノウサギ、ホンドタヌキ、ホオジロ、モズ、そして371種の植物……、さまざまな生き物が暮らす豊かな森林。福島県西郷村の村火地区にある三菱製紙株式会社の「村火社有林」が、環境省によって生物多様性を持つ区域と評価され、「自然共生サイト」に認定された。
福島県レッドリスト掲載の植物や鳥類が生息
「自然共生サイト」とは、事業者や民間団体・個人、地方公共団体によるさまざまな取り組みなどによって、生物多様性の保全が図られている区域を認定するもの。
村火社有林は、三菱製紙グループがサステナビリティ推進活動の一環として、生物多様性の維持・保全活動を行うとともに、体験型森林環境学習「エコシステムアカデミー」の活動の場となっている。今回の認定は、その幅広い取り組みが評価されたことによる。これらの活動の中心となっている、総務部
エコシステムアカデミー室 室長の田村 博之さんは、村火社有林について次のように説明する。
「村火社有林は、標高約700~850mの甲子高原に位置し、日光国立公園第二種特別地域内、阿武隈川の支流の堀川(ほっかわ)流域にあります。日本海側の積雪地帯の気候と太平洋側の気候の境界に位置することから、両者の特徴を備えた珍しい生態系を見ることができます。もともとミズナラやクリなどの天然広葉樹林でしたが、明治から第二次世界大戦終了までは軍馬放牧地の一部となりました。終戦後、昭和30年代から40年代にかけて、三菱製紙がパルプ用としてアカマツを植林しましたが、その後、三菱製紙の事業再編があり、ここのアカマツを利用することはなくなり、伐採されずに約60年が経過。2010年に社会的要請に応え、体験型環境学習の場として利用することになったのです」

ニッシー・カッシーの森でみられる樹木
村火社有林では371種の植物(木本:169種、草本:202種)が確認されており、おもにアカマツ人工林、スギ天然林、河畔林、アカマツ-ミズナラ林、ミズナラ林が見られる。そのうち、福島県レッドリスト(絶滅のおそれがある種のリスト)に掲載されている植物が9種も確認されている。

ニッシー・カッシーの森でみられる野鳥 写真提供:公益財団法人 日本野鳥の会 白河支部
生き物も多様で、鳥類は、福島県レッドリスト掲載種9種を含む16種を確認。哺乳類は、イノシシ、ニホンジカ、二ホンノウサギ、ホンドタヌキなどをトレイルカメラで撮影観察している。土壌動物(地上徘徊動物)は、2021年596個体、2022年373個体、2023年718個体を確認した。
10年以上にわたって体験型環境学習に取り組む
エコシステムアカデミーの活動では、従業員や株主さま・お客さまなどの事業のステークホルダー、地域の子ども達に向けて森林・自然観察、植樹・育樹・樹木計測などの林業体験、紙漉き体験、クラフト体験などのプログラムを提供。三菱製紙グループの企業価値向上を図りながら、生物多様性の大切さについて啓蒙活動に励んでいる。
「社有林を『体験ゾーン』と『自然ゾーン』に分けています。体験ゾーンでは、森林観察ができるように『太陽の森』(下刈り・間伐をしている森)、『月の森』(下刈り・間伐をしていない森)、『ニッシー・カッシーの森』(植樹・育樹体験ができる森)、『自然観察路』を決め、それに応じて周辺樹木の整備をしています。また、参加者の森林・自然観察を補助するために、観察路に沿った代表的な樹木にはネームプレートを取り付け、観察ガイドを実施。一方の自然ゾーンでは我々の手は入れずに、自然の成り行きにまかせています」
※注釈 ニッシー・カッシーは三菱製紙エコシステムアカデミーのマスコットキャラクター
ニッシーの名前の由来は「にしごう村」より、カッシーの名前の由来は地名「かし高原」より

「ニッシー・カッシーの森(社有林)マップ~体験ゾーン」 エコシステムアカデミーのパンフレットより
なお、三菱製紙は、環境省が創設した「生物多様性のための30by30アライアンス」にも参加している。30by30とは、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のグローバルターゲットのひとつ、「2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する」という目標のこと。この目標達成に向けて、日本の有志の企業・自治体・団体が発足した組織が「生物多様性のための30by30アライアンス」だ。
「今回、自然共生サイトの認定を受けることができたのは、当社の10年以上にわたる取り組みの成果だと思っています。周辺地域に対しても貢献できてうれしいです。今後も、循環型社会の構築に向けて定めた『三菱製紙グループ環境憲章』のもと、生物多様性の維持・保全活動をはじめとして、持続可能な地球環境に貢献すべく取り組んでまいります」
INTERVIEWEE

田村 博之 HIROYUKI TAMURA
コーポレート・ガバナンス本部 総務部 エコシステムアカデミー室
室長
三菱製紙株式会社
東京都墨田区両国2-10-14
1898年創業。「水処理膜基材・フィルター等の不織布関連」「エレクトロニクス関連」「医療・ヘルスケア関連」など幅広い分野で、安全かつ快適なサステナブル社会の実現に貢献する製品の開発、販売を行うほか、適切に管理された森林からの木材(FSC®認証材)の調達を進め、「パルプ事業」、「脱プラ製品」の開発や、印刷・情報用紙で培った抄紙・塗工技術を活かして特徴のある「紙製品」の開発を行う。