各社のトピックス

2024.07.25

ENEOSホールディングス

ENEOS Holdings

廃食油、つまり使用済み食用油を飛行機の燃料に!
ENEOSが企業、自治体とタッグを組んで持続可能な世界を目指す

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家庭系廃食油回収用のリターナブルボトル

ENEOSグループでエネルギー事業を手掛けるENEOS株式会社(以下「ENEOS」)が企業・自治体と連携し、持続可能な航空燃料(SAF)の原料へ廃食油を再活用。温室効果ガス排出量削減に向けた、新たなチャレンジだ。


ENEOSでは2023年から、廃食油を「持続可能な航空燃料」(SAF)の原料として再活用する取り組みを進めている。
具体的な取り組みとしては、飲食店舗などが排出する廃食油を回収し、ENEOSが建設を進めている和歌山製造所のSAF製造プラントで原料として使用することを予定している。

ENEOSは、気候変動対応を含む社会の課題解決と持続的発展を重要な経営課題としており、2030年度に同社温室効果ガス排出量46%削減※および2040年度に同社温室効果ガス排出量実質ゼロに向け、再生可能エネルギー「グリーン電力」の導入や国内外における植林活動など温室効果ガス削減施策を実施している。
※2013年度比


ENEOSバイオ燃料部バイオ燃料2グループの廣本 良樹氏は、今回の取り組みの経緯について次のように語る。
「そもそも弊社は外食産業など廃食油を排出される事業者様とのビジネス的な接点が多くありませんでした。また、廃食油を取り扱うノウハウもなかったため、廃食油を扱う回収企業である吉川油脂様、それを扱う商社である野村事務所様とパートナーを組んで、外食産業を始めとした事業者様との接点作りをし、廃食油の安定的なサプライチェーン構築を行っています。」

廃食油の再活用には数量的な課題もある

同社が現在進めている廃食油をSAFの原料として再活用する製造方法は、すでに世界的に商業利用されている。ただ、廃食油をSAFの原料として活用していくには、数量的な課題があるように見えるが、その点はどうなのだろうか。

「確かに数量でいえば、課題があります。例えば、国内で出る廃食油は年間50万トンくらい。今進めている和歌山のSAF製造プラントをもしフル稼働させようとすると、国内の廃食油すべてを集める必要がある。しかし、弊社が国内の廃食油をすべて調達できるわけではありませんし、人口の観点からいっても、廃食油の数量は限られています。」

廃食油の扱いは事業系と家庭系では大きく異なる。家庭系は廃棄されているのが現状だが、その一方で事業系はほぼ100%回収されており、そのリサイクル先の一番手としてはおもに豚や牛の畜産用飼料として活用されている。そのため、もしSAFの原料として廃食油を大きく活用しようとすれば、これまでの需給や価格面に問題を生じさせてしまう。そこで同社が目を付けるのが2番手のリサイクル先として活用されている輸出向けであり、今はそれが海外のSAFやバイオディーゼルの原料に活用されているという現状がある。

「だからこそ、できる限り、国内で出た廃食油は国内で活用したい。弊社はこの輸出に回っている廃食油の数量を獲得していきたいと考えているのです。今後は家庭系の廃食油についても、自治体などと回収拠点を整備していくことで、取り組みを本格化させていきたいと考えています」
実際、昨年は東京都環境局が家庭系廃食油回収の補助金事業を公募し、ENEOSはセブン&アイ・ホールディングスと組んで応募、採択されている。現在、都内のイトーヨーカ堂13店舗(2024年5月現在)で回収を進め、今後はコンビニ店舗でも回収できるよう検討を進めている。

各企業、自治体とも連携し、廃食油の回収を始めている

2030年に供給する航空燃料の10%をSAFへ

こうした廃食油が再活用され始めたのは、温室効果ガス排出量削減が問われ始めてからだが、実は現在、使用されているSAFの原料のほとんどは廃食油が原料となっている。
では、なぜこれまで日本の石油会社は廃食油の活用に乗り出さなかったのだろうか。その理由としては、まずSAFはつくる過程でコストがかかるうえ、大量に生産し、大量に輸送するほどの規模感がない。
とすれば、ENEOSが廃食油を活用してSAFを製造する理由はどこにあるのだろうか。
「それは世界的に航空分野でのカーボンニュートラルを目指す動きが進められているからです。また国内でも、石油業界と官庁で行うSAFの導入促進に向けた官民協議会のなかで、2030年時点で石油会社が供給する航空燃料の10%をSAFに置き換えるという方針が打ち出され、今後、SAF義務化の流れが訪れることとなっているのです。そのため、当社でもまずは2030年までに廃食油でSAFを供給できる体制を整えなければならない。規制への対応という側面がある一方で、人口減により国内需要が減少するなかで、世界的潮流に乗っていかなければならない。そして、将来的な収益の減少トレンドを別の軸足でカバーしていきたい。そうした考えもあるのです」

廃食油の活用を今後本格化させていくには、家庭系の回収を始めとしたサプライチェーンの構築が必要になる。だからこそ、今回の取り組みがその第一段となるのである。将来的に廃食油の扱いを増やしていくため、家庭系の回収面についてはさまざまな仮説を立て、実証実験を行い、社会実装を目指していく方針だと廣本氏は強調する。

「現在、ほかにもサントリー様が接点を持っている小売店、外食事業者などを当社にご紹介いただいております。それは、SAFをつくる過程で出るナフサがペットボトルの原料になるため、双方にとってメリットがあるからです。これからもこうしたさまざまな企業との取り組みを通じて、温室効果ガス排出量削減に向けてチャレンジを続けていきたいと考えています」。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

廣本 良樹  YOSHIKI HIROMOTO

バイオ燃料部 バイオ燃料2グループ
チーフスタッフ

ENEOSホールディングス株式会社

東京都千代田区大手町1-1-2
2010年設立。“『エネルギー・素材の安定供給』と『カーボンニュートラル社会の実現』との両立に向け挑戦する”というENEOSグループ長期ビジョンのもと、エネルギー事業、石油・天然ガス開発事業、金属事業、機能材事業、電気・都市ガス事業、再生可能エネルギー事業などを手掛ける。

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