ライフスタイル企画

2024.07.04

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.10

心は初夏の日差しのように!?
アクティブな気分になれる3冊

BOOK REVIEW メインビジュアル

梅雨が明け、いよいよ夏。猛暑続きの近年の夏に恐れをなしている人も多いかもしれないが、冷房の効いた自宅とオフィスの往復ばかりなんてもったいない。まばゆい日差しのもと、思い切り汗をかき、開放的な気分になれたりするのは夏の醍醐味というもの。今月おすすめするのは、そんなアクティブなパワーをもたらしてくれそうな本。タイプの異なる3冊を揃えたので、自分なりの“着火”スタイルを見つけてほしい。

俺たちの箱根駅伝

俺たちの箱根駅伝
池井戸 潤著 文藝春秋(上・下 各1,980円)

大人になると、何かにがむしゃらに向き合うことが難しくなる。目先の情熱より長期的なことを見据えた選択が増えたり、お互いがwin-winになる落とし所を探ったり…。けれどそんな世の中でも、精一杯ベストを尽くすことはできるはず――例えばこの小説の面々のように。
舞台はタイトルのとおり箱根駅伝。かつての名門・名聖学院大学陸上競技部は、2年連続で本戦出場を逃し、主将の青葉 隼人にとって最後のチャンスとなった4年の秋の予選会でも、運命は味方しなかった。そして隼人は箱根への夢を、学生連合チームで挑むことになった…。一方、箱根駅伝の戦いは選手だけではない。中継を行う大日テレビ・スポーツ局では、プロデューサーの徳重が社内政治の板挟みに合っていた。何としても箱根駅伝を、硬派なスポーツ番組として全うしたい…。選手、監督、テレビマン、それぞれの迷いと決意、戦いが描かれていく。スポーツ小説としても、お仕事小説としても楽しめる、“1粒で二度おいしい”仕立てだ。
私達は、いつでも主人公でいられるわけではない。むしろ二番手三番手や敗者に甘んじるしかないことの方が多いだろう。一番輝くステージでない場面で戦わなくてはならないとき、いかにして自分を鼓舞し、メンバーを高めることができるのか。そこにその人の本当の力が表れるのかもしれない。

最適脳 6つの脳内物質で人生を変える

最適脳 6つの脳内物質で人生を変える
デヴィッド・JP・フィリップス著 久山 葉子訳 新潮社(1,210円)

できることならいつもポジティブでいたいけれど、そうはいかないのが人生。すぐに落ち込む。ストレスが多い、人前が苦手、自己肯定感が低い…それは家族のせい?取引先や上司のせい?いや実は、脳内物質のバランスがくずれているせいかも。本書に倣って自分の脳内物質を整えることで、“誰か”や“何か”のせいで気分が振り回されることなく、自分の感じたいとおりに思考や感情を向けられるようになるのだ。
本書では著者自身が陥っていた精神的な深い闇から抜け出す過程で、試行錯誤して見出した脳内物質の働きとその活用法を解説。効果が感じられやすく実践しやすい6つの脳内物質を選んで書かれているため、シンプルで分かりやすい仕立てになっている。その6つとは、生きる原動力「ドーパミン」、親しみと調和が湧き上がる「オキシトシン」、満足感と安心感が得られる「セロトニン」、ストレスが掛かると発生する「コルチゾール」、ハイになれる「エンドルフィン」、そして勝利への武器「テストステロン」。それぞれの長所短所を知り、日常生活で効果的に発動させるための行動のレシピを、「天使のカクテル」「悪魔のカクテル」というキャッチーな表現で紹介している。
理論だけでなく、信念の力に頼るだけでもなく、すぐ実践できる具体的な行動が散りばめられている本書。“毎日練習すれば6ヶ月以内に未知の世界を体験できる”という著者の言葉を信じて、ぜひ実践してみてほしい。

BLANK PAGE 空っぽを満たす旅

あいにくあんたのためじゃない
柚木 麻子著 文藝春秋(1,760円)

SNSや配信サービス、リモートワークなど、楽で便利な仕組みが次々と登場しているにもかかわらず、それに反比例するように私達が閉塞感を感じているのはなぜだろう。SNSは虎視眈々と人の足を引っ張り、嫉妬の種を撒いてきたりするし、◯◯ハラは社会の隅々にまで広がり、自分自身がいつ、まだ知らぬハラスメントで吊るし上げられるのではないかとビクビク。他人から押し付けられたレッテルまみれで息苦しいそんな世の中を、思い切りぶち破ってくれるような短編集がこちら。
過去のブログ記事が炎上しているラーメン評論家、ベイクショップ開業の夢を語るけれど行動に移せないフリーター女子、悪阻とコロナ禍で孤独に苦しむ妊婦、番組降板が囁かれる落ち目アイドル…。人間観察力に長けた著者が描くのは、今を生きる人々のリアルな心のほころび。それもそのはず、ほとんどの話は著者の実体験がきっかけになっているという!しかしそれは鬱々としたものでも後味の悪いものでもなく、タイトルやカバーから感じられるとおり、どこかドライで軽妙。誰かを一方的に悪者にすることのないやさしささえ行き届いていて、何やらすがすがしい。
現実の鬱屈だってこんなふうに、捉え方ひとつでもっと軽やかに笑い過ごせるのかもしれない。油断するとつい何事も深刻に捉えてしまいがちな時代だからこそ、やや鈍感力強めにたくましく生きる人々の姿が爽快だ。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイル、ウェルネスなどをテーマに雑誌やウェブ、広告、書籍などにて編集・執筆を行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。

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