各社のトピックス

2024.12.19

キリンホールディングス×三菱重工業

KIRIN BEVERAGE×MITSUBISHI HEAVY INDUSTRIES

キリンと三菱重工が共同実証した「自動ピッキングソリューション」が稼働!物流の2024年問題の解決策を提供

各社のトピックス メインビジュアル 「マンスリーみつびし」

キリンビバレッジとキリングループロジスティクスが管轄する海老名物流センター(神奈川県海老名市)に、ΣSynXを活用した国内初の自動ピッキングソリューションが導入され、2024年12月に稼働を開始した。このソリューションは、キリングループと、三菱重工業(以下、三菱重工)、三菱重工グループの三菱ロジスネクストの共同実証によって実現。三菱重工が研究開発したデジタルイノベーション(DI)ブランドである「ΣSynX (シグマシンクス)」を活用し、飲料倉庫のピッキング作業を自動化・知能化している。

共同実証に参加したキリンビバレッジ 生産本部 SCM部 企画担当 主査の矢野 太介さん、同部 企画担当の橘 知宏さん、 開発に携わった三菱重工業 物流・冷熱・ドライブシステムドメイン ソリューション事業統括室 主席部員の茶園 聡さん、主任の箕浦 史礼さんの4人に、導入に至った経緯や今後の展望を聞いた。

機械を「かしこく・つなぐ」ことで効率化

キリングループの飲料倉庫における入出庫作業は、有人フォークリフトやオペレーターによる手作業が中心。パレットの重心が偏らないよう商品の種類や量を見ながら荷物を配置するという、オペレーターの熟練したノウハウによって安全かつ効率的に行われている。しかし、商品によっては1箱20kg近くになり、その作業負担をはじめ、オペレーター不足、夜間作業の対策といった労働環境の改善が課題となっている。また、トラックの荷待ち・荷役時間など滞在時間の短縮も物流業界全体の課題だ。

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ΣSynXのシステム構成

自動ピッキングソリューションは、卸売業者や小売業者などお客様への出荷データを処理する倉庫情報管理システムと倉庫内の機器の間に、三菱重工独自のプラットフォームΣSynXを導入。倉庫情報管理システムが自動/有人の作業振り分けを実施し、ΣSynXが自動ピッキング用の作業計画を作り、複数のAGF(無人フォークリフト)、AGV(無人搬送車)、商品をパレットに積むパレタイザーといった機械に指示して制御。ピッキング作業を自動化するだけでなく、搬送やピッキングの回数を削減し効率化する。三菱重工業の茶園 聡さんとキリンビバレッジの橘 知宏さんは次のように語る。

「ΣSynXは『かしこく・つなぐ』がキーワード。ただシステムと機械をつなぐだけでなく、最適化ソフトウェアによって賢く動かします。例えば、27箱のケースが積まれているパレットから22箱を出荷する場合、単純な自動化だとロボットが1箱ずつ22回運びます。ΣSynXは27箱からまず5箱を運び出して22箱にし、パレットごと運ぶことで、作業回数が17回分減るわけです。これを一日に何百とあるオーダーすべてについて行うので作業を大幅に効率化することができます」(茶園さん)

「実証試験では導入前に比べて生産性が4割以上高まりました。この自動ピッキングソリューションによって、人手不足の対応、重筋作業の軽減による安全面の強化が見込まれています」(橘さん)

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自動ピッキングソリューションによる最適化による効果

75年以上続く両社の信頼関係、共同実証ではケースの改善にも取り組む

キリングループと三菱重工グループによる自動ピッキングソリューションの共同実証は、2022年11月から2023年6月にかけて行われた。そもそもなぜ自動化に向けて両社が協業することになったのか。キリンビバレッジの矢野 太介さんがその経緯について振り返る。

「キリンビバレッジでは、2018年夏に猛暑による飲料の需要の増大に加え、天災による物流の寸断による影響で出荷調整をすることになり、お客さまにご迷惑をおかけしました。この経験から、メーカーとしての製造責任だけではなく、お客様へお届けするところまでの供給体制を見直す動きが始まりました。自動化などの設備投資についても、物流領域ではあまり重要視されてきませんでしたが、昨今の社会状況もあり社内の風向きが変わりつつあります。三菱重工さんとは製造領域での納品実績もあった為、倉庫管理の自動化に向けて共同実証に向けて動き出しました」(矢野さん)

キリングループと三菱重工グループの信頼関係は深く長い。三菱重工グループの食品機械事業は、1948年(昭和23年)にキリンビールから受注したビール樽充填機が始まり。そこからビールの発酵タンクや貯蔵タンク、ブライトビアタンク、飲料の充填機など数々の機械を納入してきた。その信頼関係を生かし、今回もしっかりとタッグを組み、細かな課題にも妥協せず試行錯誤を繰り返した。

「課題を調査するため、キリンさんの複数の物流センターにうかがい、ある倉庫では早朝4時から夜9時まで、オペレーターがどのような工夫をされ、どういった苦労をされているのか、ストップウォッチを持って作業時間を計るなどして自分達の目で見て情報として蓄積。それらをどのようにソフトウェアやハードに織り込んでいくかを考えました。また、飲料を入れているケースひとつをとっても、買う人が開けやすいようにミシン目を入れる工夫がされています。しかし、そのためにロボットのハンドで動かすと破けやすくなるという課題があります。そこで、三菱重工内の実証設備(LogiQ X Lab)を活用し、三菱重工側ではケースの破損を防ぎつつロボットの動作をどこまで速くできるかを、キリンさん側では糊の付け方やミシン目をどのようなデザインにすればいいかを、生産性向上に至るまで共同で改善を重ねました」(茶園さん)

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共同実証の様子

「そうですね。当社でも2022年に経済産業省が推進している「ロボットを導入しやすい環境(ロボフレ環境)」の取組みに参画したことで、ケース設計の重要性を改めて認識しました。今回の共同実証において実際にロボットが動かしてみて、どうすれば破損が少なくなるのか、我々だけでなく生産・技術のメンバーも巻き込んでトライアンドエラーを繰り返しました。2025年春から一部商品に新設計を適用する予定です」(矢野さん)

ピッキングのほかにトラックの荷積み、庫内搬送も自動化

今後は海老名物流センターをモデルケースとして、全国のキリンの物流拠点に広げる横展開を目指す。さらに、ピッキング作業以外にも自動化を広げ、入荷から出荷までの一連の荷役作業の自動化に挑む。三菱重工業 箕浦 史礼さんは次のように語る。

「海老名物流センターで自動ピッキングソリューションを活用していただき、その経験をキリンさんのほかの物流拠点に生かしていきたいですね。海老名物流センターとほかの拠点とでは、敷地面積や運用の仕方に違いがあるので、それぞれの拠点に合ったシステムの構築をまた一緒に手掛けていければ」(箕浦さん)

この一連の自動化については、ΣSynX搭載新型無人フォークリフトを活用し、飲料倉庫への入出庫(庫内搬送)、トラック荷積み・荷降ろしに至るまでの一連の荷役作業を自動化するための共同実証をすでに2024年8月から開始している。この実証が成功すれば、「ピッキング」「入出庫」「トラック荷積み・荷降ろし」の3領域の自律化・知能化が可能になる。

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物流知能化・自動化ソリューションのご紹介

「入出庫はスピードを優先するのか、保管効率を優先するのかなど、さまざまある目的に合わせた制御、最適化機能の開発が課題。トラック荷積み・荷降ろしに関しては、さまざまな形状のトラックがあるため、その場で無人フォークリフトが環境を自律的に認識・判断し、適切に荷役を行えるかが課題」と茶園さん。ラボレベルでの検証を完了し、現在は実際のオペレーションにどれだけ対応できるか試験を続けていて、2026年3月までには完了する予定だという。

「現状の業務を変えていくことには大きな力が必要ですが、将来にわたってお客さまにしっかりと商品を届けていくために、自動化を導入した体制づくり、次世代AGFの活用などにチャレンジしていきたいと思っています」(橘さん)

「キリングループのコーポレートスローガンは『よろこびがつなぐ世界へ』。偶然かもしれませんが、ΣSynXの『かしこく・つなぐ』と「つなぐ」という共通部分があります。お客様へよろこびをお届けしてつなげられるように、持続可能なサプライチェーン構築のためハード、ソフト両面で取り組んでいきます」(矢野さん)

「ΣSynXはさまざまな機器をつなぐことができるので、飲料以外のピッキングも可能です。『こんな作業も自動化、無人化できるのだろうか』と気になった方は、ぜひお気軽にお声をかけてください」(箕浦さん)

「これまであまり着目されてこなかった物流の自動化へのチャレンジは大きなやりがいがあり、自分自身の成長につながりました。こういった動きを三菱グループに広く知ってもらって、皆さんで業界を盛り上げていきましょう!」(茶園さん)

トラックドライバーの働き方改革により、物流の停滞が懸念される「物流の2024年問題」に直面しているが、長時間労働の要因は長時間の運転時間に限らず、荷積み・荷降ろしといった倉庫作業に起因する荷待ち時間もあげられており、物流オペレーター不足や重量物ピッキングへの対策など倉庫作業の効率化が課題となっている。キリングループと三菱重工グループは、物流オペレーター不足、労働環境の改善、またトラックドライバーの作業時間や待機時間削減などさまざまな物流課題の解決に向けて連携していく。

【コラム】

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海老名物流センターでセレモニー開催

12月12日、海老名物流センターでΣSynXを活用した国内初の自動ピッキングソリューションをお披露目するセレモニーが開催された。多くのメディアが取材に訪れ、その注目度の高さがうかがえた。実証を重ねてきたキリングループと三菱重工グループの関係者も一堂に会し、ともに物流課題の解決に向けて協力していく決意を新たにした。

INTERVIEWEE

矢野 太介  DAISUKE YANO

キリンビバレッジ 生産本部 SCM部 企画担当 主査

橘 知宏  TOMOHIRO TACHIBANA

キリンビバレッジ 生産本部 SCM部 企画担当

茶園 聡  SATOSHI CHAEN

三菱重工業 物流・冷熱・ドライブシステムドメイン ソリューション事業統括室 主席部員

箕浦 史礼  FUMIHIRO MINOURA

三菱重工業 物流・冷熱・ドライブシステムドメイン ソリューション事業統括室 主任

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左から橘氏(キリンビバレッジ)、箕浦氏(三菱重工)、矢野氏(キリンビバレッジ)、茶園氏(三菱重工)

キリンビバレッジ株式会社

東京都中野区中野4-10-2 中野セントラルパークサウス
1963年創立。「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献する」というキリングループの理念のもと、清涼飲料商品やサービスを提供する。

三菱重工業株式会社

東京都千代田区丸の内3-2-3
1884年創立。高い技術力に最先端の知見を取り入れ、カーボンニュートラル社会の実現に向けたエナジートランジション、 社会インフラのスマート化、サイバー・セキュリティ分野の発展に取り組み、人々の豊かな暮らしを実現する。

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