三菱総合研究所が大阪・関西万博でSDGs活動への行動変容を促すと同時に
地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring®」の本格展開目指す
三菱総合研究所は2024年7月から「EXPO2025デジタルウォレット」のポイントサービス「ミャクポ!」の提供をスタートさせた。
「ミャクポ!」は「EXPO2025デジタルウォレット」の一部で、2025年大阪・関西万博の機運を醸成し、SDGs(持続可能な開発目標)達成への取り組み促進を目的としたポイントサービスとなる。万博イベントや万博テーマに関連するSDGs活動への参加を通じてポイントをためることで、万博への関心を高めていく狙いがある。三菱総合研究所主任研究員の岡田 雅美氏がこう語る。

出所:株式会社三菱総合研究所
「これまでのさまざまな実証実験をふまえ、ポイントを通じてSDGs活動への参加を促す行動変容を起こすことができるのではないか。さらに、行動経済学のナッジアプローチを組み合わせることで、万博をきっかけにより一層の環境行動を促していきたいと考えているのです」
「EXPO2025デジタルウォレット」は、大阪・関西万博でのキャッシュレス推進の理解促進や万博開催前からの盛り上げ、または万博のテーマである「デジタル」「未来への行動」を理解し、万博への参加を促すことを目的としたアプリサービス。
「ミャクポ!」のポイントは、協力会社・協力機関が提供している既存サービスの利用やポイントからの交換、イベントへの参加やSDGs達成などにつながる行動によって貯まり、貯めたポイントは、万博関連の限定商品や万博入場チケット、万博会場内の特別な体験やサービスと交換できる。
こうした取り組みについて三菱総合研究所は2023年10月にデジタル地域通貨事業で業務提携したりそな銀行と、「Region
Ring®」を利用した令和6年の和歌山市プレミアム付商品券事業での実績を持ち、さらに大阪地域を対象として、さまざまなデジタル地域通貨、商品券、ポイント、給付などのサービスを一括で提供するウォレットサービスを推進している。
三菱総合研究所は「ミャクポ!」の推進や「Region
Ring®」の提供実績を踏まえ、りそな銀行との大阪地域での協業を加速させる方針だ。今後は大阪ウォレット構想の利用拡大や“転々流通”(地域通貨が域内で繰り返し流通する仕組み)の検討など、地域の持続的成長につながる展開を図っていく。
デジタル地域通貨サービス「Region Ring®」は
地域課題を統合的に解決するプラットフォーム
こうした一連の取り組みの核となるのが、同社が独自開発した地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring®」だ。
これは、デジタル通貨、電子マネー、ポイント、デジタルチケットなどの付加情報を記録したカラードコイン(ビットコインから派生した色付きコイン)をひとつのプラットフォームで発行・管理できる。また、高いセキュリティと1地域・1事業当たりのリーズナブルな導入コストも実現。形態としては、いわゆるQRコード決済のようなものだと考えれば分かりやすい。

出所:株式会社三菱総合研究所
ブロックチェーン技術を活用した「Region Ring®」の仕組み
なぜシンクタンクである三菱総合研究所がデジタル地域通貨サービスに携わるのか。同社関西・万博担当本部長の崎 恵典氏は次のように語る。
「2017年の最初の実証からかれこれ7年ほど取り組んでいますが、MRI内で自社の新規事業開発を探索する部署に所属した研究員が、ブロックチェーンと、AIやビッグデータ解析との組み合わせが社会課題解決に資する可能性を予見して、構想し、推進してきた事業です。その後、地域振興や街づくりにかかわっている研究員達が加わり、地域活性化や社会課題解決のための行動変容につながるユースケース開発に着手したという経緯があります。さらに当社の経営理念が2020年に刷新され、調査研究・コンサルティングで得られたノウハウを生かしたサービス開発を行い、実際に社会実装することによって社会を変革するというスタンスを打ち出した点も背景にあります。本サービスはブロックチェーンの仕組みを使って、万博の理念を実現させていくものですが、広く使うというよりも、あくまで地域内で循環させていくものを目指しているのです」
この「Region
Ring®」は、さまざまな地域課題を統合的に解決していくデジタルプラットフォームであることに特徴がある。健康増進、地域・観光活性化、デジタル行政の推進、働き方支援、SDGs活動支援など、地域に新しいアクションを起こし、これからの地域が向き合っていくさまざまな課題に応用することを目指している。
現在は、例えば地域の商店街などの利用促進や地域内消費の喚起を目的とした地域通貨やプレミアム地域商品券事業、あるいはSDGs活動や健康増進など地域住民の行動変容を促すためのポイントの付与、または高齢者や子育て世代に対する福祉サービスの利用券や金券の発行などでの活用が進んでいる。
「その意味でも、万博というムーブメントのなかで今回の『ミャクポ!』の取り組みを活かしながら、なかなか行動に至らない一般の方々にどうすれば動いてもらえるのか。行動変容に向けたさまざまな仕掛けを試していきたいと考えています」(岡田氏)
大阪・関西万博を活用して、
考えるだけでなくアクションへ
三菱総研は万博での取り組みをきっかけに関西圏での存在感も高めようとしている。そもそも同社の関西拠点が設立されたのは奇しくも大阪万博があった1970年。同社の創立と同じ年に設立され、関西圏でも同社は50年以上の歴史を持つ。
今回の万博についても3~4年前からプロジェクトに積極的に取り組んできた。同社万博推進室長の今村 治世氏が語る。
「私達は大阪・関西万博のマスタープランをつくる仕事にも携わってきました。受注型であるシンクタンクの仕事からすれば、従来ならそれで仕事は終わりなのですが、今回は会社として次の事業モデルを構築するためにも、万博という機会を実験的に活用したいと考えています。私自身、クリエイターや地元の企業関係者と一緒に動画や一部の展示ブースをつくる仕事にもチャレンジしています。『ミャクポ!』もそうですが、従来の三菱総合研究所ならやろうとしなかったことに取り組んでいるといっていいでしょう。万博を活用して、考えるだけでなくアクションへ。私達も次の一歩へ進みたいと考えているのです」
現在、世間の万博に対する見方には少なからず逆風もある。だが見方を変えれば、企業にとって万博は未来のサービスや技術を試す格好の場となるはずだ。では、万博に向けてどのような思いを持っているのか。まず崎氏がこう述べる。
「三菱総合研究所として新しいことを発見できるような場にしたいと思っています。そのためにリスクをとって、協賛活動も行っています。関西の肌感覚からすれば、開催半年前の10月からはこれまで秘匿されてきたパビリオンの情報なども出始めており、ムードは明らかに好転してきています」
続けて今村氏は「何をもって成功というのか難しい」と前置きしたあと、こう言う。
「私はドバイ万博やパリオリンピックも見てきたのですが、それぞれ都市の力というものを強く感じました。ドバイやパリという都市のブランドを保つために人々が努力しているのです。大事なことは瞬間風速的にでも来場者がその都市をすごいと思ってくれるかどうか。まさに大阪のブランド力を高めて、成功体験につながってほしいと思っています。また、万博には世界中から多くの人が集まってきます。大阪という都市が世界で将来的にどんな地位を占めていくのか。都市力を高めるうえでもいい機会にしていきたいと思っています」
最後に岡田氏も次のように語る。
「万博に参加した方々が、行って残念ではなく、行って良かったと思えるような機会になればいいと思っています。『ミャクポ!』でポイントをためる行動を通じて社会課題解決につながるアクションに気づき、参加した甲斐があった。何かしら記憶に残るような体験を一人一人が持ってほしい。そう思っています」。
INTERVIEWEE

岡田 雅美 MASAMI OKADA
主任研究員

崎 恵典 YOSHINORI SAKI
関西・万博担当本部長

今村 治世 HARUTOSHI IMAMURA
万博推進室長
株式会社三菱総合研究所
東京都千代田区永田町2-10-3
1970年設立、資本金63億3,624万円、社員数(連結)4,428名(2023年9月30日現在、単体1,150名)。三菱創業100周年の記念事業として、三菱グループ各社の共同出資により設立された。国内5大シンクタンクのひとつで、政府や官公庁、地方公共団体などから委託される各種調査研究に強みを持つ。シンクタンク・コンサルティングサービスやITサービスなどを展開。