
東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の展覧会「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」。印象派を代表するルノワールと、名前は知っていても少々捉えどころのないセザンヌによる、国際巡回展を覗いてみた。
その一角に足を踏み入れた瞬間にワクワクする美術館
オフィスワーカーとショッピング客、さらに国内外からの観光客が行き交う丸の内。その中心ストリートである丸の内仲通りの一角、ブリックスクエアの広場の奥に見える煉瓦造りの建物が三菱一号館美術館だ。展覧会への期待とともに、この一帯の景色には毎回心が躍らされる。展示作品だけでなく、ロケーションや建物、空間の美しさが楽しめるのもこの美術館の特徴だ。


〝近代建築の父〟と呼ばれるジョサイア・コンドルが設計したオフィスビルを可能な限り忠実に復元、三菱一号館美術館として2010年4月に開館。ヘンリー・ムーアの彫刻作品も展示されている一号館広場を、美術館と丸の内ブリックスクエアが囲む。
印象派のルノワールは「クリアな色彩」と「筆のタッチ」に注目
芸術グループや社交界に溶け込んで活躍し、印象派を代表する画家といわれるようになったピエール=オーギュスト・ルノワール(1841~1919年)。画家としての登竜門であるサロン(官展)にも印象派グループにもなじめなかったポール・セザンヌ(1839~1906年)。
19世紀後半から20世紀初頭にかけてのパリ画壇の重要なアーティストに数えられる2人による今回の展覧会は、イタリアのミラノ、スイスのマルティニ、香港を巡回して東京へやって来た。美術ファンを満足させる展覧会であることに間違いはないが、西洋美術や美術展鑑賞にあまりなじみがない人は、ポイントを絞って見ることをおすすめしたい。あれもこれもしっかり見ようとがんばると後半疲れてしまい、全体の印象がぼんやりしてしまう…と危惧するからだ。今回は、ルノワールとセザンヌ、それぞれの鑑賞ポイントを紹介しよう。

まずはルノワール。印象派の特徴のひとつは、太陽の光の美しさを純色に近い絵具で描き出すこと。キャンバスに点描や筆のタッチを残して描く筆触分割(色彩分割)という手法も用いられている。上は『風景の中の裸婦』の一部に寄って撮影したもの。裸婦像の描写には古典的表現の影響が見られるものの、やわらかそうな肌はクリアな色彩で表現され、筆のタッチで背後の景色を形づくっている点も印象派特有だ。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「風景の中の裸婦」
1883年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
ポスト印象派のセザンヌのキーワードは「幾何学的表現」
印象派の影響を受けながら、それぞれに独自の画風を確立したゴッホやゴーギャン、セザンヌなどはポスト印象派と呼ばれる。セザンヌは印象派が重視した「光と影」の表現から一歩進み、対象を幾何学的な形態で捉えた。人物や果物、花などを見比べるとよく分かる。印象派のルノワールはより写実的で質感や温度まで感じられそうだが、ポスト印象派のセザンヌは丸や四角といった図形の集合によって構成されたような作品が多いのだ。1895年の個展開催まではほぼ知られていなかったセザンヌだが、あとにキュビスムなどの前衛芸術に大きな影響を与えた。今回展示されている果物や自身の息子を描いた作品などに、ルノワールとセザンヌ、そして印象派とポスト印象派の違いをよく見ることができる。


上/ピエール=オーギュスト・ルノワール「桃」
1881年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
下/ポール・セザンヌ「わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご」
1890~1894年 油彩・カンヴァス


上/ピエール=オーギュスト・ルノワール「花瓶の花」
1898年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
下/ポール・セザンヌ「青い花瓶」
1889~1890年 油彩・カンヴァス オルセー美術館蔵
©Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF


上/ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピエロ姿のクロード・ルノワール」
1909年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
下/ポール・セザンヌ「画家の息子の肖像」
1880頃 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
香りの演出や展覧会オリジナルグッズ、カフェではタイアップメニューも
フランス南部のエクス=アン=プロヴァンスに生まれ、パリとプロヴァンスを行き来したセザンヌ。そのセザンヌを訪ねて度々プロヴァンスに滞在したルノワール。2人のゆかりの地であるプロヴァンスで1976年に誕生したのが、ライフスタイルコスメティックスを展開する「ロクシタン」だ。本展覧会ではそのロクシタンとのコラボが実現。会場では、プロヴァンスの豊かな自然を表現したフレグランスシリーズ「ヴァーベナ」と「ローズ」による香りの演出が施されている。


展示室間の廊下には、ロクシタンのイメージ写真や商品の展示も。この廊下から見下ろすガーデンと広場の景色は、三菱一号館美術館でのお楽しみのひとつ。
また、ミュージアムショップの「Store 1894」には今回も展覧会オリジナルグッズが並ぶ。チャーム付きボールペンやポップアップメモ、トートバッグ、Tシャツ、ドリップコーヒーやマグカップなど、ここでしか手に入らない商品も。
「Café 1894」にも、ランチコースからティータイムのデザート、ディナーメニューまで、展覧会とのタイアップメニューが。鑑賞後の休憩や、同行者との鑑賞トークにぜひ利用したい。

ルノワールの「ピエロ姿のクロード・ルノワール」をモチーフにしたマグカップ2,800円。

タイアップディナー「魚介のブイヤベース ルイユ添え」2,800円(販売時間17時~22時)。
ルノワールとセザンヌ。ともに人気画家だが、それぞれの特徴や違い、見どころなどを端的に解説できる人は多くないだろう。この展覧会では、19世紀末から20世紀初頭のフランス美術界のきらめきを楽しみながら、2人の巨匠の作品を多角的に知ることになるはずだ。

展示室に設置された巨大なポートレート。左がルノワール、右がセザンヌ。
美術館データ

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより
ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2025年5月29日(木)~9月7日(日)
会期中休館日:月曜日
※7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)は開館。また7月28日(月)、8月25日(月)はトークフリーデーとして開館
開館時間:10時~18時(祝日を除く金曜日、第2水曜日、8月の毎週土曜日、9月1日~7日は20時閉館、いずれも入館は閉館の30分前まで)
入館料:一般2,500円、大学生1,500円、高校生1,300円、中学生以下無料
※第2水曜日のみ17時以降入館のマジックアワー料金1,800円や、静嘉堂文庫美術館との特別セット券などもあり。詳細は下記の公式HPにて。
問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)
展覧会ホームページ https://mimt.jp/