ライフスタイル企画

2024.09.26

旅企画「目的旅のススメ」

観るだけでなく体感する!
意外と身近な「現代建築」に出合う旅

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暑さがひと段落して、朝晩の空気に秋の気配を感じる今日この頃。酷暑による夏バテからも回復し、そろそろ何か意欲的に動きたい!というモードに入っている人も多いのでは。
食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋…。秋といえば?と聞かれて浮かぶものは人それぞれだが、今秋提案したいのは“現代建築をめぐる秋”だ。
実は、日本は世界でも有数の建築の宝庫。新進気鋭の若手建築家から世界に名を馳せるビッグネームまで、彼らが手がけた建築の数々は全国各地に点在する。公園、図書館、展望台など、身近な場所にも、知られざる名作は眠っているのだ。眺めるだけでなく、実際に足を踏み入れて“体感”できるおすすめスポットを紹介しよう。

【広島県】尾道の景観に調和した新たなシンボル空間
『千光寺頂上展望台 PEAK』

尾道市の旧市街に位置する標高144.2mの千光寺山。その山頂から中腹にかけて広がる千光寺公園は尾道のシンボルであり、市内有数の花見スポットとして知られる。

そんな市民の憩いの場に、新たな風を吹き込んでいるのが2022年3月にリニューアルした展望台だ。

頂上を意味する「PEAK」と名付けられた新展望台を手掛けたのは、京都市京セラ美術館をはじめ、国内外で活躍する青木 淳氏と品川 雅俊氏の建築設計事務所「AS」。

完成した展望台は螺旋階段の曲線とデッキの直線、両者のコントラストが強く印象に残るが、尾道の美しい景観を決して損ねることはなく、見事な調和を見せている。

大きなカーブを描く螺旋階段を上った先に繋がるのは、全長63mの橋状の展望デッキ。山々のスカイラインを守るため、細く軽い構造体の橋梁型に設計されており、気持ちのいい大パノラマが視界いっぱいに広がる。

眼下には尾道市内をはじめ、尾道水道、瀬戸内海の島々が広がり、行き交う船の姿も旅情を誘う。天気の良い日には四国連山が見られる日もあるとか。

千光寺公園内には建築家・安藤 忠雄氏が手がけた尾道市立美術館や尾道ゆかりの25人の作家や詩人の詩歌・小説の断片などが刻まれた碑が彩る「文学のこみち」などもあり、ゆっくり時間を過ごすのにぴったりの場所だ。

『千光寺頂上展望台 PEAK』

〒722-0033 広島県尾道市東土堂町20-1
☎︎ 0848・38・9184

【兵庫県】現代の宿坊で心身をリセット。
全長100mの空中座禅道場『禅坊 靖寧』

建築業界における最も権威ある賞の一つであるプリツカー賞。1979年の設立以来、建築を通じて人類や環境に一貫した意義深い貢献をしてきた建築家に1年に1人授与される栄誉ある賞だ。

そんなプリツカー賞を2014年に受賞したのは坂 茂氏。環境との調和や持続可能性を重視したデザインで知られ、フランスの現代美術館「ポンピドゥー・センター・メス」やアメリカの「アスペン美術館」など、世界中で多くの建築物を手掛けている。

彼の自然との共生を重視した建築哲学が存分に発揮されていると言われるのが、2022年4月に淡路島にオープンした「禅坊 靖寧」だ。

日本杉などを組み合わせて作られた全長100mのウッドデッキの中で行われるのは、禅をベースにしたアクティビティ。

淡路島の四季折々の景色が360度広がるオープンエアーの空間で、瞑想やヨガなど、裸足になって木の温もりを足裏から感じながら、大自然と一体化していく経験は、他では味わえない“癒し”をもたらしてくれる。

動物性の食材、小麦粉、油、砂糖を使用せず身体への負担が少ない禅坊料理を味わう日帰りプランのほか、宿泊プランもあり、刻々と変わる景色を眺めながらゆっくり過ごすのもいい。

東経135度、淡路島北部の四方を山に囲まれた“現代の宿坊”ともいうべきリトリート施設で過ごす時間は、自分を見つめ直す機会にもなるはずだ。

『禅坊 靖寧』

〒656-2301 兵庫県淡路市楠本字場中2594-5
☎︎ 0799・70・9087

【栃木県】“言葉の森”を散策するように過ごす
『那須塩原市図書館 みるる』

街から本屋が次々と消えゆく今、実際に紙に触れて活字を読む体験ができる図書館が見直されている。ただし、昔ながらのスタイルではなく、地域の活性化や街の交流拠点としての役割を期待されるケースも多い。

2020年9月にオープンしたJR黒磯駅に隣接する「那須塩原市図書館 みるる」は、その成功例として全国の自治体から注目を集める存在だ。

カフェや展示スペース、テラスなども備え、町の交流拠点という側面をもつ建物を託されたのは、栃木県出身の建築家、伊藤 麻理氏。那須塩原市の地域アイデンティティでもある「森」を公共図書館に投影。

館内に点在する“言葉の彫刻(アフォリズム)”や展示物などを通し、気づきや学びのきっかけとなる空間づくりを目指したという。

初めて訪れたなら、まず本の一文を切り取った文字が展示された“言葉の彫刻(アフォリズム)”に目を奪われるだろう。静寂の空間の中、音読にも匹敵する迫力で迫る大きな文字は、足を止めるに十分のインパクトだ。

これらは館内を通り過ぎるだけの人にも、この文字を通じて本の世界に触れ、垣間みてもらいたいという思いが込められているのだそう。

2階建ての館内には、アート作品が展示されるギャラリーや児童図書コーナー、サイレントラーニングスペースなどもあり、用途によって多彩な使い分けができるのも魅力だ。

1階のカフェ「モリコーネ」ではコーヒーはもちろん、季節のフルーツを使った期間限定のパフェや森林ノ牧場のジャージーミルクのソフトクリームなども充実。

ふらりと気軽に立ち寄れる誰にも開かれたこんな図書館、近所にあったら…と想像せずにはいられない。

『那須塩原市図書館 みるる』

〒325-0056 栃木県那須塩原市本町1-1
☎︎ 0287・63・9031
開館時間 10時〜21時(土日祝〜18時)
休館日 月曜(祝日の場合は開館、翌日が休館)

構成・文/一寸木芳枝

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