
三菱UFJ信託銀行が2023年4月から『ミドルシニアキャリア拡張コンソーシアム』を始めて1年ほど。その取り組みの狙いと成果はどうなったか話を聞いた
これこそビジネス街界隈の社会課題の解決につながるかもしれない。三菱UFJ信託銀行デジタル企画部は2023年4月より始めた『ミドルシニアキャリア拡張コンソーシアム』の活動を本格化させている。今後拡大が見込まれる「ミドルシニアのキャリア形成」を社会課題として捉え、各社人事部や事業者が集い、意見交換や仮説検証の場を構築している。参加している人事部は今年2月時点で23社にのぼり、今後50社程度まで拡大させていく。
コンソーシアム参加費は無料。他社の人事制度に関する情報収集・交換にも活用できるメリットもある。このコンソーシアムを立ち上げた同社デジタル企画部デジタル企画室プロダクトマネージャーの吉岡
洋平さんは、その狙いについて次のように語る。
「将来的に労働人口が減少していくなか、企業内で40代後半~50代の割合が増えていくことが予想されます。世代的にキャリアがある程度決まってしまう方々が大半で、キャリアの頭打ちを契機にモチベーションの低下につながる傾向があります。こうしたミドルシニア従業員のさらなる活躍を目指し、ミドルシニアの課題を解決する必要があると考えたのです」

各社における主な課題と今後の検討施策
人生100年時代のキャリアをどう築くか
こうしたキャリア支援は通常、人事関連の部署で起案するケースが多いが、同社ではデジタル企画部が企画立ち上げから運営まで担当している。吉岡さんが続ける。
「デジタル企画部は新規事業の立ち上げがミッションのひとつであり、これまでブロックチェーンを活用した不動産関連投資商品の証券小口化なども立ち上げてきました。こうしたなか、当社では”「安心・豊かな社会」を創り出す信託銀行”というビジョンを掲げています。私どもには60~70代の個人のお客さまも多く、もともとはシニア向けの違うビジネスをテーマに考えていました。そこで市場調査をするなかで、豊かな社会とは何か、豊かなセカンドライフとは何かについてヒアリングを重ねました。興味深いことに、その答えはお金でもよいサービスでもなく、社会とのつながりが大事だというものだったのです」
退職した途端にこれまでの付き合いが途絶え、振り返れば会社以外のコミュニティに参加していなかったことを後悔している。その一方で豊かなセカンドライフを過ごしている人は、40~50代のときに社外の人と交流をもってつながっていたことが大きい。ならば、60~70代になってからサービスを提供するより、40~50代のうちから行動やキャリアの視野を拡げるために、ミドルシニアのキャリア支援が有望だと捉えた。
「信託銀行の業務は企業年金や退職金関連を扱うため、各社人事部とも度々交流を持つ機会があります。普段からお金周りの話はよくするのですが、人生100年時代といわれるなか、キャリアについての悩みも多く耳にしました。人的資本経営などが問われる昨今、新たにミドルシニアのキャリア支援に乗り出すことこそが効果的だと考えたのです」(吉岡さん)

コンソーシアムは各社の共創の場にしたい
この『ミドルシニアキャリア拡張コンソーシアム』は1社ではなく、複数の企業が集まるコンソーシアムの形式にしているところも面白い。他社でも人事キャリア関連のコンソーシアムを作った事例はあるが、ミドルシニアのキャリアに絞ったコンソーシアムは同社の取り組みが初めてであり、金融業界でも珍しい。
「いろいろな企業と面談するなかで、1社だけで始めても施策の有効性が見えないという声もよく耳にしました。だったら、皆でまとまって考えた方がいい。コンソーシアム自体はビジネス化する意図はなく、あくまで人材領域について考える共創の場にしていきたいと考えています」(吉岡さん)
同コンソーシアムの具体的な取り組みは主に研究、実証、発信の3本柱に分かれている。研究では月1回集まって各社の事例紹介や課題の共有ほか、事業者や専門機関の知見を結集し有効な施策を発案することを狙う。実証では立てた施策の有効性を検証する実証実験を実施、さらなる改善へ向けた打ち手を検討する。発信については社会課題の解決へ向けて貢献するため、研究・実証における活動の成果を対外的に発信していくというものになる。
参加企業は三菱グループだけでなく、今年2月時点で大手企業を中心に人事部など計23社、事業者も計10社ほどにのぼる。同社デジタル企画部デジタル企画室新事業企画グループ調査役の金田
大亮さんもこう述べる。
「大企業ほどミドルシニアキャリアに関する悩みは深くなっている印象です。大企業で働く40~50代の皆さんは新卒で入社して20~30年以上勤務している方がほとんど。転職の経験もない方が大半の世代であり、今の若手世代と比べて、キャリア感覚が大きく異なるようです」

どんなセカンドライフを過ごしたいか
同コンソーシアムでは、各社人事部の課題を解決するためのさまざまな施策を検討・実証している。施策案として、例えば役職定年後にモチベーションが低下する社員が多い場合は、役職定年前に社外活動を経験し自社を振り返ってもらうことで、モチベーション向上につなげる。また、キャリア研修を実施しているが、従業員の行動変容につながらない場合は、座学研修を受けたあと、社外体験をできる環境を従業員に提供する。あるいは、長年培ったスキル・経験が社外では通用しないと考えている社員が多い場合は、自社以外の経験を積むことで、自身のスキルを再認識してもらう。こうした具体的な施策を検討し、実証実験を通じて効果を検証している。
「まだ正解が見えているわけではありませんが、多くの課題に対し、ディスカッションを重ね、これが打ち手として有効なのではないかという施策を実行しています。そこでより色濃くなっているのは社外との交流や人脈づくりであり、会社は異なるが同世代の人たちと話し合い、コミュニティをつくっていくことが新鮮で、新たな気づきが得られるという感想が多い。そこに1つの可能性があるのではないかと考えています」(金田さん)
同コンソーシアムの実証実験の第一弾は2023年9~11月に行われ、農業体験や空き家再生プロジェクトのワークショップに16名が参加。第二弾は2024年2~3月に行われ、こちらも16名が参加した。吉岡さんが言う。
「参加している皆さんはキャリアが長い分、引き出しも多く、アイデアも豊富で、これまで培ってきた自分の強みを活かしています。例えば、収支計画1つとっても、銀行では当り前でも、他業界の方から見たらその方の大きな強みになります。今後は各社で相互に副業しあったり、転職経験者やセカンドライフについて参加者が自ら相手を選んで話を聞きにいったりするような試みなども検討しています。そうした場を活用して、ミドルシニアの皆さんに新たな気づきを得てほしいと思っています」。
INTERVIEWEE

吉岡 洋平 YOHEI YOSHIOKA
デジタル企画部デジタル企画室プロダクトマネージャー

金田 大亮 DAISUKE KANEDA
デジタル企画部デジタル企画室新事業企画グループ調査役

渡邉 恵衣 KEI WATANABE
デジタル企画部デジタル企画室新事業企画グループ調査役
※なお所属部署は取材日時点のものになります。
三菱UFJ信託銀行株式会社
東京都千代田区丸の内1-4-5
1927年設立。拠点数は、国内51、海外5、従業員数6,218人(2023年3月31日時点)。暦年贈与信託、教育資金贈与信託、相続型信託、結婚子育て支援信託、住宅ローン、NISA、資産運用、年金運用などを手掛ける。“「安心・豊かな社会」を創り出す信託銀行
”を掲げ、社会課題解決のプロフェッショナル集団として、新しい信託銀行ビジネスの創造にチャレンジしている。