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凜とした岩崎彌太郎生家を守る、日々の美観維持活動

-三菱ゆかりの地便り 高知・安芸#5-

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高知県安芸市の岩崎彌太郎生家。三菱源流の地点ともいえるこの場所は、観光はもとより三菱グループの歴史を学ぼうと訪れる人や、岩崎彌太郎に感銘を受け訪れる人、「18世紀に遡る小規模民家の好例」といわれる主屋(登録有形文化財)を訪れる人など、さまざまな思いを持った人々が生家の門をくぐります。





訪れるたび、建物や垣根、ゴミ一つない庭が醸し出す凜とした佇まいに背筋がピンとなりますが、そんな生家の趣きを維持するには日々の管理・美観維持が不可欠です。今回は日々の管理がどのように行われているのかをご紹介します。

生家施設の日々の維持管理を行う草野隆美さん

今春から生家施設の管理を担当している草野隆美さん。都会のホテルマンから一転、高知県に移住し、安芸市の「地域おこし協力隊」に就任。そののちご縁があって、この地で日々の管理に奮闘しています。

「実は庭木の剪定は生まれて初めての経験で、ネットで検索しコツを学ぶなど試行錯誤していたのですが、ご近所の方々に声をかけてもらいアドバイスをいただいたおかげで、なんとか美観を維持できるまでのコツを得たように思います。いつもご近所の方々から『よう、やりよるねえ』『暑いから気をつけなさいよ』と気遣っていただける。そういう気持ちがとてもありがたいです」

生家正面の長い生垣
垣根は長い多面体。そのため2メートル程度の片面1スパンを7回に分けて丁寧に電動のこぎりで切ります。この丁寧さが美観を維持する秘訣だとか。
さまざまな思いで訪れる方々が気持ちよく入れるように、門をくぐった時の第一印象は特に大事にしています。

「生家で仕事をしていると、ビジネスマンの一行がお見えになることがよくあります。ある時お話を伺ってみると『彌太郎さんにあやかりたいので、その空気を吸いにやってきた』と。三菱の創業者だと以前から知ってはいましたが、そういう思いを抱いて来られる人に出会うと、改めて岩崎彌太郎氏は日本の経済発展に大きな貢献をした偉人なのだと、思いが新たになります」

草野さんの仕事は生垣の剪定、庭の手入れ、生家の清掃のほか、文化財ゆえ傷み具合のチェックも重要です。

「4月に愛媛県と高知県で最大震度6弱を記録する地震が起きました。ちょうど就寝前だったのですが、状況が落ち着いてから懐中電灯を片手に、主屋や蔵、周辺の設備に損傷がないか確認をしました」 幸い異常は無かったそうですが「着任早々でしたので若干動揺したことを今でも覚えています」

「地域おこし協力隊」で活動していたころの草野さん

愛知県出身で、地元でホテルマンとして24年勤めた草野さんが安芸市に移住したきっかけは、自分の潜在能力を伸ばしたい、という思いでした。

「ホテルマンとして接客や経理・調達等の管理業務も経験する中で芽生えた気持ちでしたが、新たな自分磨きのために生活のスタイルを変えようと、地方の移住を考え始めました。情報収集をするなか、比較的温暖で、プロ野球が好きなこともあってキャンプ地としても馴染みがある高知県に絞って調べると、安芸市が移住・定住施策を担当する『地域おこし協力隊』を募集していることを知り、その第一号になりました」

空き家調査、移住フェアへの参加や、自ら企画立案した「移住者交流会」の運営を担当しましたが、任期は3年。もといた土地に帰る人もいる中、草野さんは安芸市での生活が心地よく、友人もできたこともあり、地元で仕事を探そうと決意。任期満了後は安芸市から高知市近くまで通勤する生活をはじめました。職場の同僚からは高知市への引っ越しを勧められましたが、居心地の良い安芸市から移住するつもりはなかったそうです。
一方、生家では長らく維持管理を務めた前任の方が引退するため後継者を探していました。その検討の中で安芸市役所から「適任の方がいる」という話が持ち上がり、草野さんに打診をしたのが昨年のこと。愛知県のホテルマンが安芸市の岩崎彌太郎生家に行き着くとは、ご縁があってのことと草野さんは述懐します。

「協力隊員時代にお世話になった安芸市役所の方から『草野さん、安芸市にある岩崎彌太郎生家の仕事をやってみませんか』と声をかけていただいた時は、喜んでお引き受けしました」

銅像をみるたび「おはようございます」「今日もよろしくお願いします」と思わず挨拶しています、と草野さん。

日々の管理をするために、草野さんは生家の近隣に住んでいます。

「朝起きて、カーテンを開けると彌太郎さんの銅像が見える。出勤をしようと外に出るとまた彌太郎さんが見える。帰宅するときも彌太郎さん・・・。銅像を目にするたびに『この方がおられたからこそ今の自分がこの場所にいる』と、毎日感謝の気持ちが湧き起こります」

草野さんは来訪者から気軽に声をかけていただけるようにと、胸に名札を着けて生家の管理・美観維持を行っています。生家で草野さんを見かけたら、生家の維持で心得ていることなど話を聞いてみるのも、生家をより良く知るきっかけになるかもしれません。

三菱ゆかりの地便り 高知・安芸#1で紹介した主屋・北面屋根の差し茅工事が始まりました。

夏場の工事は大変ですが、空調作業服を着て手作業で茅を差しながら穂先の角度を調整し、はさみで断面を揃えていきます。機械ではできない精緻な作業です。

2025年春には正面と北面とで趣が違う、貴重な主屋の表情を楽しめそうです。

※2024年9月13日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。