三菱関連企業のトップのお考えやお人柄をお伝えする連載『トップインタビュー』。第13回は三菱UFJニコスの角田 典彦社長に、合唱で培った「トライ&エラー」「ワンチーム」の精神、「快適・安全・安心」なクレジットカードへの想いなどを聞いた。

合唱部出身らしく、声優のような美しい声音の角田社長。三菱UFJ銀行の役員時代には専門家にボイストレーニングも受けていたとか。取材時にも“七色の声”を聞かせてくれた。
三菱UFJニコス 代表取締役社長
角田 典彦(すみた・のりひこ)
1966年、和歌山県生まれ。1989年に東京大学法学部を卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。東京・青山支店に配属される。法人企画部長、営業第五部長などを経て、2019年4月から常務執行役員 地区本部長、2022年4月から同 営業本部長を歴任。2023年6月より現職。
――角田社長はトレンドウォッチャーで、大変興味の対象が広いと伺いました。休日はどんなふうに過ごされているのですか?
角田ゴルフの予定が入っている日や、ジョギングやウォーキングといった日課をこなす時間を除くと、街に出てグルメ探訪をしていることが多いですね。例えば東京の下町エリアですと、団子屋さんとかうどん屋さんなどを何軒もはしごします。私自身がグルメ好きということもありますが、お客さまとお会いするときに地元のおいしい店の名前を出すと話が弾むんですよ。三菱UFJ銀行時代、東日本の支店を担当する役員だった頃にも、この地道な予習が大変役に立ちました。その前には10年間調査部に在籍して業界や企業の調査を行っていたこともあり、物事を深掘りしていく作業が性に合っているのかもしれません。世の中で今どんなものが流行しているのかを自分の足で探し出し、自ら体験して楽しむというのが私のやり方です。本もよく読みますし、コンサートや映画などエンターテインメント全般にも興味があり、時間を見つけて足を運ぶようにしています。

――最近最も心に刺さったエンターテインメントは何でしたか?
角田2023年の話になりますが、シンガーソングライターの松任谷 由実さんの「50th Anniversaryコンサートツアー」ですね。舞台に海賊船のセットをしつらえ、海賊に扮した人達がアクロバティックな動きを見せたり、大きな龍のロボットが登場して口から火を噴いたりといったエンターテインメント要素が満載で楽しめました。何よりすごいのは主役の松任谷さんで、御年69歳(当時)なのに全く衰えを感じさせず、歌う・踊る・演じると八面六臂の活躍ぶり。見ている私達も、ものすごく元気をいただきました。当日はペンライトの代わりに腕に巻くタイプのライトが観客全員に配られ、コンピューターで制御してこの場面は赤、この場面は白というふうに色が変わるようになっていました。それも演出のひとつだったのですが、観客を驚かせたい、喜ばせたいと変化を恐れず果敢に最先端の技術を取り入れる姿勢には本当に頭が下がりました。私もコンシューマービジネスの世界に身を置く人間として、新しい技術を活用しながら、もっともっとお客さまのニーズに寄り添い、ビジネスを発展させていかなければと決意を新たにしました。そういう意味で、去年体験したエンターテインメントのなかでもずば抜けて印象的なイベントになりました。
大型無担保融資の回収に成功
――角田社長はバブルの絶頂期に当時の三菱銀行に入行されています。若手バンカー時代、一番心に残っている出来事をお聞かせください。
角田初任店は東京の表参道にある青山支店に配属されたんです。通常は3年で次の部署に異動するのですが、私は4年在籍しました。というのは最後の1年、バブルが弾けて不良債権化した大型融資の回収を担当したからです。丁度3年目の最終日に、当時の支店長に呼び出され、「前任者が異動になるから君に頼むよ」と言われて、沢山の資料とともに引き受けたのですが、めぼしい資産はほとんどメインバンクの他行が担保として押さえていたうえ、若手が担当するには桁違いの大型融資という難題でした。色々な分析や交渉を経たうえで、当時は担保にはなりそうにないと見られていた非上場海外株式や映画配給権などが、幸運にも恵まれて上場したり大ヒットしたりと大幅に価値が向上したことで、担当者3代がかりで全額を回収できたという経験です。
もちろん私一人の力ではなく、上司や先輩方等には本当にいろいろ助けていただきました。当時の青山支店には尊敬できる素晴らしい方々がたくさんいらして、私はとても恵まれていたと思います。この経験を通して、絶対に無理だと思える案件でも冷静に分析、調査して集めたデータを整理していくと何かしら道筋が見えてきて、それを愚直に突き詰めていけば結果が出るものなのだということを学びました。その思いは今に至るまで変わっていません。何事も諦めることなく、可能性があればそれを総当たりして取り組んでいこうというのが私のスタンスです。ただ、時折はめげそうになることもあります(笑)。そんなときはグルメやエンターテインメントで癒やされています。
毎日腹筋1,000回で高音が出るように
――仕事をするうえでは「トライ&エラー」や「ワンチーム」の精神を大切にされているそうですね。
角田私は中学、高校、大学と混声合唱、男声合唱を部活でやってきまして、そのなかで培ってきた姿勢です。もともとボーイソプラノで女性よりも高音が出せたのですが、中学時代に声変わりして男声のパートでは下から2番目のバリトンまで声域が下がってしまい、主旋律を歌っていたのが引き立て役に回りました。そのときはどうすれば高い声が取り戻せるだろうと試行錯誤しながら、ひたすら体を鍛えたんですね。具体的には毎日1,000回腹筋をやり続けました。その結果、X JAPANのヴォーカルくらい高い声が出せるようになりました。それが「トライ&エラー」の大切さに気づいたきっかけです。今の仕事でも急成長するキャッシュレス業界において最初から正解を見いだすのは困難で、迷っているうちに絶好のタイミングを逃してしまうこともありますから、とにかくやってみるという「トライ&エラー」の精神が求められているように思います。

NHK全国学校音楽コンクール和歌山県大会に出場した際の角田社長。(前列右から4人目)
――もう一つの「ワンチーム」はラグビー日本代表のスローガンとして一躍有名になった言葉でもあります。
角田そうですね。合唱もラグビーと同じで、2~3人うまい歌い手がいても必ずしもいいハーモニーになるとは限らないんですよ。むしろ、突出してうまい人はいなくても皆で気持ちを合わせてハーモニーを奏でられる合唱団の方が全体としては美しく聞こえるものです。うまい歌い手ほど主張したくなるものですが、ときには自分を抑えてほかのメンバーが声を出しやすい環境をつくっていく必要があるわけです。チームとしての統率力が高まると実力以上の力を発揮できるということを合唱部の活動を通して痛感し、三菱UFJ銀行で大きな組織の長になったときには「組織の外の人達も巻き込み、大きな輪になってワンチームでやっていこう」と発破をかけてきました。実際、ワンチームを強めれば強めるほどチーム内でのコミュニケーションが活性化して組織の風通しがよくなり、成果も出るというプラスの螺旋階段をどんどん上っていくような状況が生まれてきています。

――素晴らしい好循環ですね。角田社長の発案で御社の新キャラクターの社内公募をかけたと伺いました。これも「トライ&エラー」ですね。
角田実は1,000個くらいトライしたいアイデアがあって、今、小出しにしているところです(笑)。なかでも優先度が高かったのが当社独自の新キャラクターをつくることで、それなら当社をよく知る社員の皆さんからアイデアを募集しようと考えたわけです。どれくらい応募があるか不安もありましたが、ふたを開けたら648点にもなりました。トレンドウォッチャーを自任する私としては、それを普通に審査するだけではつまらない、昨今話題のオーディション番組風に予選、本選をやろうじゃないかとなりました。第1次予選で648点を10点まで絞り、プロのデザイナーに入っていただいてその10点をブラッシュアップし、全社員投票にかけました。約2,300通の票が寄せられ、得票数上位の6点を対象に最終審査会を実施して、晴れてグランプリが選出されたというわけです。秋葉原の会場で行った最終審査会にはリアルタイム配信含め約500人が参加し、大いに盛り上がりました。

社内応募で選ばれた新キャラクターの「トリィ」





5月14日にLINEスタンプも登場、愛くるしいトリィが身近でも楽しめる
上記QRコードからもダウンロードできます!(2024年6月10日まで)
何十年にもわたり蓄積された「現場力」の高さ
――社内の熱気を感じます。社長に就任されて1年になりますが、就任前と就任後で三菱UFJニコスという会社に対する印象は変わりましたか?
角田実は私、社会人になって初めてつくったクレジットカードが当社のカードなんです。それを今に至るまで35年間使い続けています。いろいろな局面で助けてもらいましたし、いい思い出しかありません。ですから漠然とですが、信頼できるプロが安全・安心なサービスを提供しているのだろうというイメージを持っていました。実際に社員と接して感じたのは、非常に真面目で礼儀正しい人ばかりだということです。加えて、とくに事務方での社員の仕事の精度が高く、迅速できめ細かな対応には驚かされました。事務というのは金融の現場で最も大切な仕事です。何億トランザクションという処理作業の一つとして間違いは許されません。突然トラブルが発生することもありますが、いわゆる急場の対応力がまたすごい。要は、現場力が高いんです。これは一朝一夕でなせるものではなく、何十年にもわたり先輩の方々が蓄積されてきた歴史があってこそでしょう。安全・安心なサービスはこの真面目さや現場力の高さに裏打ちされたものなのだと納得しました。
――なるほど。ではずばり、三菱UFJニコスのクレジットカードの強みは何でしょう?
角田真っ先に挙げられるのが不正使用阻止率の高さです。不正使用による業界全体での年間被害は過去最悪だった2022年から、2023年はさらに増加しました。一方で当社の被害額は2022年より2023年の方が減少しています。これは本当にすごいことです。何が機能したかというと、昨年導入したAI(人工知能)スコアリングと当社社員の皆さんの人力とのハイブリッド効果です。AIの活用で、大量の取引について不正使用防止の精度を向上させることができましたが、それだけでは、お客さまご本人のカード利用まで止めてしまうこともあります(「真正利用阻害」)。この点、当社ではAIの判断結果を社員の皆さんが丁寧に仕分けすることで、AIの習熟度を向上させるという相乗効果が発揮され、不正使用の防止を高精度で実現するとともに、真正利用の阻害を抑制することができているわけです。快適・安全・安心、この三つをバランスよく提供するのは非常にハードルが高いのですが、当社は現場力を存分に活かして、AIと人のハイブリッドでさらにより高度な両立を目指しています。
高度な「安全・安心」性を保ち「快適化」を加速
――今後はどんな取り組みを行っていくのかもお聞かせください。
角田今春の新社会人向けを意識して7月末利用分まで最大19%のポイント還元を実施しています。今後はそうした利得性の改善に取り組み、お客さまと当社がWin-Winとなって長く続けられるような還元の仕方を模索していきたいと考えています。さらに、カードの使いやすさもどんどん改善していきます。今、三菱UFJカード向けの新決済アプリの開発が最終局面に来ていて、今年度中には投入される予定です。当社はこれまで「安全・安心・快適」をスローガンに掲げてきましたが、私は「快適・安全・安心」とあえて「快適」を一番前に持ってきています。安全・安心を重視する姿勢は変わりませんが、それ以上に今はお客さまに、より快適な利用環境をお届けすることが最優先事項と考えているからです。

――さらなる「快適化」に期待しています。最後に『マンスリーみつびし』の読者へのメッセージをお願いします。
角田当社はより一段と「快適・安全・安心」なサービスの提供に取り組んでまいりますので、三菱グループの皆さまにはぜひ、当社のカードを一層ご利用くださるようお願いしたいです。そして、よろしければ率直なご感想をお寄せください。私は基本としてお客さまの声にはすべて目を通しています。同じグループということで実際にお目にかかる機会もあるかと思いますので、その際は私の耳が痛くなるようなご意見でも率直にお聞かせください。皆さまから広く意見を伺ってよりよいサービスをお届けすることが、MUFGの「世界が進むチカラになる」というパーパスにもつながります。三菱グループの皆さまと「ワンチーム」で前に進んでいけたらと思います。