
みにきて! みつびし
不毛の原野を切り開き、日本の畜産業発展に貢献
小岩井農場
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アンケートでは「名前と場所を知っている」と「名前を知っている」の合計が99%という、圧倒的知名度を見せつけた小岩井農場。ただ、実際に「行ったことがある」方は22%にとどまりました。まだ未訪問の皆様に代わり、カラットが行って見てきた魅力の一端をご紹介しましょう。
![]() 「小岩井」駅駅舎。宮沢賢治もこの駅を降り、長編詩「小岩井農場」を書いた。
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薄曇りの肌寒い秋の日、盛岡駅からJR田沢湖線に乗り換えて、ゴトゴト揺られること10分ほど。農場にちなんで名づけられた小岩井駅に降り立ちました。
「小岩井」を地名だと思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは農場を開設した日本鉄道会社副社長・小野義眞、三菱社第二代社長・岩崎彌之助、鉄道庁長官・井上勝の3人から一文字ずつ取って命名されたものです。不毛の原野だったこの地で、日本の畜産業の発展に貢献するために開設されたのが小岩井農場でした。
小ぢんまりとした小岩井駅の木造駅舎は大正10年の開業当時から使用されているもの。宮沢賢治の長編詩『小岩井農場』ではこの駅前に「馬車がいちだいたってゐる」とありますが、今日、駅前で目にしたのは農場の方手配の取材用自動車。早速乗り込み、いよいよ旅の目的地へ向かいます。
![]() 農場の敷地入口付近に建てられた木製の看板。ここから900万坪に及ぶ広大な農場が広がる。
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駅を出て少し進むともうそこは農場敷地内です。あれ? 公式サイトには小岩井駅から徒歩約80分(約6km)と書かれていたのに?と不思議に思いましたが、それもそのはず、小岩井農場の敷地は実に900万坪(南北13km、東西5km)。敷地内では酪農の他にも、林業や種鶏、乳製品などの食品作り、観光業「まきば園」等々を展開しています。そういえば私は「まきば園」のサイトを見たのだったと思い出し、「6km」というのは小岩井駅から「まきば園」までの距離というわけでした。到着早々に農場の広大さを実感し、気づけば空はすっかり晴れて、農場見学のスタートです!
歴史と生命を感じる建造物群を見学
小岩井農場では先ごろ、農場内の建造物21棟が、国の重要文化財の指定を受けることが決まりました。そこで今回は農場の様々な見どころの中から、歴史的建造物を中心にご紹介していきます。明治36年に建てられた「本部事務所」もそのひとつ。赤い屋根が可愛らしく、詩『小岩井農場』にも「本部の気取つた建物」なんて表現で登場していますが、現役の事務所です。
![]() 本部事務所。窓や天井の造りに洋風建築が取り入れられているのが特徴。かつて農場には病院や学校もあり、本部を中心としたコミュニティだった。
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そう、重要文化財指定を受ける明治~昭和初期建設の建造物の多くが、今も現役で使用されているのがスゴイところ。現在、本部は立派な林の中にありますが、昔は屋根の上の望楼から、農場全体が見渡せたそうです。明治32年に農場主となった三菱三代社長・岩崎久彌もここから農場を眺めて、この地を、ひいては日本の畜産業を豊かにする夢を思い描いていたのでしょうか。
![]() 圧倒的存在感の四階倉庫。木造ながら、中には電動昇降機も備えた当時の最新鋭設備。
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事務所棟に続いて見学したのが倉庫連。4棟の「玉蜀黍(トウモロコシ)小屋」に並んで立つのは「四階(しかい)倉庫」。その名の通り4階建ての巨大な飼料保管倉庫で、こんな大きな木造倉庫を大正時代に建てたなんて!と驚くほどの迫力です。せいぜい2階建てが普通だった当時、海外視察から帰った場長が建設を決めて、東京の三菱本社から反対されながらも完成させたというエピソードがあり、重要文化財となる今、その場長さんは鼻高々かもしれませんね。
![]() まるで秘密基地のような天然冷蔵庫。電気のない時代、乳製品を保存するのに使用された。
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そしてカラットいちばんのお気に入り倉庫が「天然冷蔵庫」! 小山をくりぬいて作られていて、内部は年間を通じて10℃程度の涼しさだったそうです。緑に覆われた小山の中に、装飾を施したドアが埋め込まれた外観はなんだか秘密基地のようで、とってもワクワクしました。
![]() 山麓館農場レストランのランチ。牛乳、卵、チーズ、牛肉、すべてが小岩井農場産で美味しい!
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広い敷地内を歩き回ってお腹の空いた私たちは、ここで小岩井農場の観光施設「まきば園」内にある山麓館農場レストランへ。窓の外に雄大な岩手山を見ながら、お肉も卵も牛乳もすべて農場産の、小岩井農場ならではの美味しさに舌鼓を打てば、早起きしたのも寒さも忘れるというものです。
様々なアトラクションが用意されている「まきば園」には、文化財群をめぐるガイド付きバスツアーも。小岩井農場開業当時を再現したガイドさんの制服も気分を盛り上げ、楽しく歴史的建造物を見学することができます(冬期間は運休中。4月より再開)。
美味しいランチでパワーチャージした後は、レンガ造りで現存する日本最古のサイロといわれる一号サイロ・二号サイロがそびえる「上丸牛舎」へ。ここは小岩井農場の酪農発祥の地。重要文化財指定を受ける一号~四号牛舎ももちろん現役で、中に入るとたくさんの乳牛が迎えてくれました。ちなみに観光客が入れる入口の一番近くには一番の「美人」が配置されるそうで、この日も鼻筋に白いラインの入った美牛さんがキラキラの目でご挨拶。
![]() 重要文化財となる牛舎も現役。のびのびと草をはむ牛たちを見学できる。
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小岩井の酪農事業は日本の畜産振興をめざして始まったもので、現在にいたるまではっきりとした血統が明らかなのも特長のひとつ。だから安心して美味しい乳製品や牛肉をいただくことができるのですね。これからは小岩井産のチーズやソフトクリームを食べるたび、あの大切に育てられている可愛い牛たちの牛乳が使われているんだな、と思い出すことでしょう。
とにかく広い小岩井農場は魅力も学ぶことも盛りだくさん! 今回の記事では紹介しきれなかった小岩井農牧の環境への取り組みなどについても、またの機会にご紹介したいと思います。
![]() 目移りするほど多彩なお土産の中から、今回は「牧場のまんじゅう」をチョイス! 小岩井のミルクを使用した白あんの入った、ここでしか買えない味。
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地元では「岩手山に3回雪が降ると、里に雪が降る」と言われているそうで、この日すでに岩手山はうっすらと雪化粧。岩崎彌之助社長らの時代から、農場は120回を超える春夏秋冬を繰り返してきました。暮れてゆく空の下、歴史ある建造物と、それが見つめ育んできた命と精神に心満たされて、今度は桜の季節に来たいなと思いながら、小岩井農場を後にしました。
注:本文中の情報等はいずれも2016年12月現在のものです。
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こんにちは! 事務局のカラットです。子どもの頃から家の冷蔵庫やスーパーの食品売り場でおなじみの「小岩井」ブランド。その小岩井が、三菱にゆかりがあったことをと後々知って驚いたという方も少なくないのでは? 今回は、先ごろ「重要文化財に指定」のビッグニュースも飛び出した、小岩井農場へお邪魔してきました!