
みにきて! みつびし
近代日本史の目撃者にして重要文化財
明治生命館
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三菱一号館に次いで建てられた三菱二号館は、旧明治生命の社屋でした。その三菱二号館を取り壊し、三菱一号館を設計したジョサイア・コンドルの弟子・曾根達蔵を建築顧問に、東京美術学校(現東京芸術大学)教授の岡田信一郎が意匠設計して建設されたのが明治生命館です。
![]() 西玄関から明治生命館を見上げる。5層分を貫く巨大なコリント式の列柱が目を引く。
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明治生命館の竣工は1934(昭和9)年。設計、建設に至るすべてを日本人が担った最新鋭の近代ビルでした。しかし5年後の1939年、第二次世界大戦が勃発します。東京も大空襲により焼野原となりましたが、丸の内周辺は空爆を免れます。そして明治生命館は終戦後、アメリカ極東空軍司令部(FEAF)として使用するために、1956(昭和31)年までGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に接収されることとなりました。
そんな深い歴史を持ち、建設当時のデザインを今に伝える明治生命館は、1997(平成9)年に昭和の建造物として初めて、国の重要文化財に指定されました。その内部は一部一般公開されており、実際に見学することができます。それではその様子をご紹介しましょう!
肌で歴史を感じられる館内見学へ!
![]() 2階会議室。空調設備・電気時計など当時の最新設備を完備。マッカーサーも何度も訪れた、歴史的にも重要な場所。
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通常の入館ルート(西玄関)とは異なり、1階のラウンジから明治生命館に入った私たちは、まずは階段で2階へと案内されました。2階には会議室や応接室、執務室、食堂といった企業ビルらしい部屋が並びますが、最初の注目は会議室。30人は着席できそうな大きなテーブルが据えられたこの部屋こそが、終戦後FEAFとしての接収期間中、米・英・中・ソの4か国代表による対日理事会(ACJ)の会場となった歴史的な部屋なのです。連合国軍最高司令官D. マッカーサーもこの部屋には何度も足を運んだと聞いては、思わず緊張もしてしまうというものです。
一方でこの会議室をはじめとする各部屋には冷暖房が完備され、空気で書類を送るエアシューター、セントラルクリーナー(各室に据え付けられた吸気口にホースを接続して使用する掃除機)、さらには電気時計や自家発電装置など、当時のオフィスビルの最新設備がずらりと揃っている点にも注目です。意匠の凝らされた壁の下の方にセントラルクリーナー用の穴があいています。見学の際はお見逃しなく!
続いて訪れたのは資料・展示室。ここでは建設時の貴重な映像資料が展示されています。明治生命館を設計した岡田信一郎は建設中に病に倒れ、こうした映像を撮影させて現場の状況を確認していたのだそうです。建設業に携わっていたというご年配の来館者が、じっと映像に見入っていることもあるとか。完成したビルの素晴らしさだけでなく、それを作った人々の熱を感じられるコーナーです。
![]() 皇居のお堀を望む応接室。ケネディ駐日大使は左奥のソファで馬車の出発を待った。
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そして次に向かったのが応接室です。装飾も家具もひときわ美しく、なるほど応接のための部屋らしい…と思ったらそれもそのはず、現在も各国公使が皇居に向かう時にはこの応接室で出発を待つのだとか。そうか、あの椅子に…とミーハー気分でシャッターを切ってしまいました。
これらの2階のスペースは、中央に大きな吹き抜けを囲む形で設計されています。1階部分は現在、明治安田生命の店頭営業室として使用されていますが、こうしてぐるりと2階回廊が1階を囲むのはこの時代の金融業店舗のスタイルなのだそうです。確かに、三菱一号館の銀行営業室を復元した「Café1893」もこのスタイルでした。
![]() 往年の名画座を思わせる講堂の扉と内部(非公開)。明治安田生命ビルの完成までは社内行事等で使用されていた。
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一般公開されているのは1、2階エリアですが、今回の研修会では特別に非公開エリアも見学させていただきました。レトロ感たっぷりのエレベーターにタイムマシン気分で乗り込んで7階へ上がると、そこにはまるで映画館のような扉が。中は300人ほど収容可能な座席と舞台とが設置された講堂でした。壁面のレリーフや窓枠の意匠など、とてもオフィスビルとは思えない美しさに目を見張ります。接収期間中は扉が米国空軍のシンボルカラーのエアフォースブルーに塗りつぶされていたそうですが、現在は復旧されて落ち着いた佇まいを取り戻しています。
このように幾多の歴史的出来事の刻まれた明治生命館。趣ある回廊や装飾の美しい講堂で会社員生活を送られている方々が羨ましいことしきりです。
アンケートの結果では「明治生命館の一般公開に行ったことがある」と回答された方はまだごく少数(5.6%)でしたので、超高層ビルが立ち並ぶ現代の丸の内で近代日本へのタイムスリップを味わえる明治生命館に、一度足を運んでみませんか?
次回は東京駅前で「信託」について気軽に学べる『信託博物館』を訪問します!
注:本文中の情報等はいずれも2016年8月現在のものです。
こんにちは! 事務局のカラットです。2013年秋、アメリカのキャロライン・ケネディ駐日大使が馬車に乗って皇居での信任状捧呈式へ向かう様子が報道されたのをご記憶の方も多いと思います。あの馬車の出発地点が、『明治生命館』(明治安田生命保険相互会社本社本館)でした。前回の三菱一号館に続き今回も、三菱広報委員会の会員会社広報部員向け研修会(東京・丸の内にある三菱ゆかりの地訪問)に同行させていただいたレポートとして、昭和初期の近代オフィスビルの象徴『明治生命館』へと皆さんをご案内します!